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貿易実務

ウクライナに侵攻したロシア等への制裁(輸入)まとめ

ウクライナに軍事侵攻したロシアに対する日本の制裁措置について、まとめ記事をブログ記事としてアップしていましたが、そのうちの輸入に係る制裁の内容について、本記事にまとめました。【2022.12.29→ 輸出と輸入に分割、新たな記事を追加】

まとめ記事は今後も続き、一層長編になり、内容が複雑になると考えた結果です。ご了承くださいますようお願いいたします。

ロシアを原産地又は船積地域とする物品の輸入禁止

ウオッカ、合板、電気機器など38品目の輸入を禁止

まず、2022年4月19日から、ロシアを原産地又は船積地域とする、ウオッカ、合板、電気機器など38品目について、輸入公表の2の第1の「2号承認品目」に追加することで、実質的に輸入禁止としました。(→ 改正後の輸入公表

なお、本措置については、2022年4月19日より前に輸入契約を行った場合は、7月18日までに輸入するものについて規制対象外となることに留意する必要があります。

対象貨物は、以下の3グループです。

  1. アルコール飲料6品目【HS 22.03(ビール)、HS 22.04(ワイン)、HS 22.05(ベルモットその他のぶどう酒)、HS 22.06(りんご酒、梨酒、ミード及び清酒その他の発酵酒)、HS 2207.10(エチルアルコール)、HS 22.08(ウイスキー、ジン、ウオッカ、リキュール)
  2. 木材(チップ、丸太及び単板等)4品目【HS 4401.21(針葉樹のチップ)、HS 4401.22(針葉樹以外のチップ)、HS 44.03(原木、木材、丸太)、HS 44.08(化粧板用、合板製造用又はその他の用途の単板)】
  3. 機械類・電気機械28品目【HS 84.07(ピストン式のエンジン及びロータリーエンジン)、HS 84.09(エンジンの部分品)、HS 84.12(ジェットエンジン、ロケットエンジンなどその他のエンジン)、HS 84.13(液体ポンプ)、HS 84.14(気体ポンプ、真空ポンプ)、HS 84.15(エアコン)、HS 84.18(冷蔵庫、冷凍庫)、HS 84.19(湯沸し器、温水器、乾燥機、熱交換器)、HS 84.21(遠心分離機)、HS 84.22(皿洗機、皿洗乾燥機)、HS 84.24(噴射用、散布用又は噴霧用の機器、消火器)、HS 84.28(持上げ用、荷扱い用、積込み用又は荷卸し用の機械)、HS 84.31(これらの部分品、附属品)、HS 84.43(印刷機、プリンター、複写機、ファクシミリ)、HS 84.50(洗濯機)、HS 84.62(鍛造機、ハンマー及び型鍛造機等の金属加工機械)、HS 84.66(これらの部品、附属品)、HS 84.71(コンピューター)、HS 84.73(コンピューター等の部分品、付属品)、HS 84.77(ゴム又はプラスチックの加工機械やこれらの物品の製造機)、HS 84.79(その他の機械類)、HS 84.81(コック、弁その他これらに類する物品)、HS 84.82(玉軸受(ボールベアリング)及びころ軸受)、HS 84.83(ギヤボックスその他の変速機、カムシャフト、クランク、歯車など)、HS 87.03(乗用自動車その他の自動車)、HS 87.08(自動車の部分品、附属品)、HS 87.11(モーターサイクル)、HS 87.14(モーターサイクルの部分品、附属品)

なお、これらの品目のHS番号の横に( )で記載した品名は、分かりやすいように私が実行関税率表の内容や解説などから一部を抽出したものですので、正確な品名ではありません。ご注意ください。

根拠法令は、外為法第52条を受けた輸入貿易管理令(輸入令)第3条と同第4条に基づく「輸入公表」となります。

ロシア原産の貴金属の輸入を禁止

6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)での合意と、2022年7月5日の閣議了解を受けて、ロシアを原産地とする貴金属の輸入禁止措置が実施されました。

具体的には、7月25日付け財務省告示201号で、既存の財務省告示「外為法第19条第2項に基づく財務大臣の許可を受けなければならない貴金属の輸出又は輸入を指定する件」(→ 平成18年財務省告443号)の一部が改正され、同告示に追加された「四」と別表第3に基づき、2022年年8月1日以降にロシアから積み出された貴金属は原則として輸入禁止(輸入の許可をしない)こととなります。

詳細は、同年7月29日付け関税局長通達(→ 財関549号)とその添付書類を見ていただくと分かりやすいですが、適用除外になるのは、入国者(一時的又は永住目的とも)が携帯品又は別送品、引越荷物、職業用具として輸入する貴金属で、「金の地金、金の合金の地金、流通していない金貨以外のもの」です。

勿論、ここで言うところの「携帯品又は別送品、引越荷物」は、自分や家族が自用に供するもの(関税定率法第14条7号又は8号が適用できるものなど)ですから、そもそも「自用の金の地金」などは考えにくいですけどね。

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ロシアを原産地とする原油の輸入禁止

2022年12月5日に、ロシアを原産地とする原油(HS2709.00)の輸入が禁止されました。

制度としては、先に説明した輸入公表(昭和41年通産省告示170号)が一部改正(→ 令和4年経産省告示195号)され、即日施行されています。

輸入公表は、輸入貿易管理令第3条第1項に基づき、輸入の際に、税関に申告する前に、経済産業大臣の承認を受けるべき品物を定めたものですが、一部は、その承認をしないことで、実質的に「輸入を禁止」することとしています。

特に、輸入公表の「二」には、いわゆる「2号承認品目」と、「2の2号承認品目」が掲げられていますが、「2号承認品目」は、原則として承認されないものが列挙されています。

今回の「ロシア産原油」は、この「2号承認品目」に追加されたわけですが、これ以外には、例えば、中国原産のさけ・ます、イラクで不法に取得された文化財、北朝鮮産の全貨物などが掲げられています。

今回のロシア産原油が入る以前に、

  1. クリミア自治共和国(ウクライナ)を原産地又は船積地域とする全貨物
  2. ドネツク人民共和国及びルハンスク人民共和国(いずれも自称)を原産地又は船積地域とする全貨物
  3. ロシアを原産地又は船積地域とするアルコール飲料や木材等の貨物

が掲げられ、これらも実質的に輸入禁止となっていました。これらの経緯については、既に当ブログ(本記事において、前述又は後述)で説明していますので、そちらをご参照ください。

今回は、ロシアを原産地とする原油が対象ですので、例えば、「他国を原産地とする原油で、ロシアの港を船積地域とするもの」は含まれません。

また、改正後の輸入公表をよく見ていただきたいのですが、今回の改正で、新たに輸入公表の「三の7の(9)」に追加された原油も、この輸入禁止措置の対象からは除かれています。つまり、新たに、経済産業省の事前確認手続きが必要なものとして、以下に限定されたロシア産原油は輸入禁止の対象外です。

  • その価格が、我が国が講ずる輸入等に係る禁止措置の対象となるロシア連邦を原産地とする原油の上限価格を定める原油の価格以下のもの
  • 「サハリン2」プロジェクトにおいて生産されたもの

この上限価格(プライス・キャップ制)の具体的な価格は、外務省の告示(→ 2022年12月5日外務省告示404号)において、「1バレル当たり60米ドル」と定められています。

なお、上記の「価格」は、輸入公表の(注)が追加されて、日本又は第三国に海上輸送される場合の価格であって、関税の課税価格(CIF価格)から海上運賃等の価格を引いた価格(FOB価格)とされています。

ちなみに、この措置の実施日は、前述のとおり2022年12月5日ですが、同日より以前に輸入契約を結び、かつ、日本に向けて船積みされたものであって、2023年1月19日より前に日本で船卸しされるものは適用除外となっています。(経産省告示195号の附則を参照)

ロシアを原産地とする石油製品の輸入禁止

最新の改正状況として、2023年2月6日に、ロシアを原産地とする石油製品(HS27.10)の輸入が禁止されました。

昨年12月に輸入が禁止されたロシア産原油と同じ枠組みですが、輸入公表(昭和41年通産省告示170号)の一部が改正され(→ 令和5年経産省告示11号)、即日施行されています。

この石油製品(HS27.10)には、関税率表の項(⇒ HS27類の関税率表)の表現から、「石油及び歴青油(原油を除く。)、これらの調製品(石油又は歴青油の含有量が全重量の70%以上のもので、かつ、石油又は歴青油が基礎的な成分を成すもの。)並びに廃油」が分類されますが、今回の措置の対象から、まず「廃油」は除かれています。

よって、今回の輸入禁止等の措置の対象となるのは、ロシアを原産地とする

  • 揮発油(ガソリンなどの自動車燃料を含む。)、
  • 灯油(ジェット機の燃料油を含む。)、
  • 軽油(ディーゼル燃料を含む。)、
  • 重油(農耕機や漁船の燃料油、船舶用燃料、工場などのボイラー燃料を含む。)、
  • 粗油、
  • 潤滑油(切削油、絶縁油及び航空機用潤滑油、焼入油、作動油、防錆油を含む。)、
  • グリース等の液状の潤滑剤

が対象となる、と言えます。

ちなみに、ここで言うところの「廃油」は、一次製品として再利用できない油(例えば、使用済みの潤滑油、作動油及びトランス油)、石油貯蔵タンクから得られた汚泥で、石油及び一次製品の製造において使用された濃度の高い添加剤(例えば、化学品)を含有するもの、水に乳化又は水と混合している状態の油(例えば、流出油、貯蔵タンクの洗浄から得られる油及び使用済みの切削油)を指します。(⇒27類注3

また、今回のロシア産石油製品の輸入禁止に関しても、「原油」と同様に、上限価格が外務省告示で定められていて、この価格を超えるものが輸入禁止、上限価格以下のものは経産省の事前確認の対象となっています。(⇒ 輸入公表2第1、3の7の(9)

ただし、以下に示す様に、今回の石油製品については、その種類によって、輸入禁止になるかどうかの価格が異なるので、注意が必要です。

今回、ロシア制裁の対象となる石油製品等の価格を定める告示(令和4年外務省告示第404号)は一部改正され、結果として以下のようになっています。(⇒ 令和5年2月6日付外務省告示第60号

(別表)

  1. 原油:1バレル当たり60米ドル
  2. 石油製品のうち高価値品: 1バレル当たり100米ドル
  3. 石油製品のうち低価値品: 1バレル当たり45米ドル

つまり、今回改正された輸入公表と、改正された外務省告示の内容を合わせると、

① 石油製品(HS27.10)のうち、HS2710.12、HS2710.19、及びHS2710.20に該当するもののうち、揮発油(ナフサを除く。)、灯油又は軽油にあっては、その価格が1バレル当たり100米ドル以下のものは事前確認、この価格を超えるものは承認の対象(輸入禁止)

② 上記①以外の石油製品については、その価格が1バレル当たり45米ドル以下のものは事前確認、この価格を超えるものは承認の対象(輸入禁止)

となります。

さらに、今回の改正内容については、本年2月6日の施行前に輸入に係る契約を行った者がその契約に基づいてする、この規程の施行前に本邦への輸出を目的として船積みされた貨物の輸入であって、本年4月1日よりも前に本邦において当該貨物の船卸しをするものについては今回の規制の対象外とされています。

この他、輸入公表の仕組みや、価格(輸出時のFOB価格)の算定の仕方、原油と石油製品以外のロシアやクリミアからの輸入品に関する規制については、この記事の前の部分をご参照ください。

ロシアを原産地とする貨物のWTO協定税率の不適用措置の導入

ロシアを原産地とする貨物について、2022年4月21日から、暫定的にWTO協定税率を適用しないこととなりました。

制度としては、関税暫定措置法第3条を追加(改正)し、関税法第3条の例外として、協定税率の適用が相応しくないときは、これを不適用として、暫定的に基本税率又は暫定税率を適用するというものです。

対象国(地域)や対象品目は政令で定めるとされ、法改正と同時に関係政令(→ 令和4年政令第179号「国際関係の緊急時に特定の国を原産地とする物品に課する関税に関する政令」)が発布されています。

この政令によれば、対象国は「ロシア」のみ。対象物品は「全品目」。期間は、令和4年4月21日から令和5年3月31日までとなっています。

「ドネツク人民共和国」と「ルハンスク人民共和国」を原産地又は船積地とする全貨物の輸入禁止

ウクライナの「ドネツク人民共和国」を自称する地域と、「ルハンスク人民共和国」を自称する地域を原産地又は船積地域とする全ての貨物を、輸入公表の「2号承認品目」に加え、2022年2月26日から実質的に輸入禁止としています。

この輸入公表の表にあっては、ウクライナのクリミア自治共和国(自称)及びセヴァストーポリ特別市を原産地とする貨物(全品目)については、2014年8月5日から輸入禁止(2号承認)となっていて、こちらの措置も継続されており、今回の2地域の品目をこのカテゴリーに追加したものです。

よって、根拠法令は、ロシアからの輸入禁止措置と同じです。

******************************

以上の制裁措置に関して、税関から、その都度、注意喚起の通達(最新の例→ 「上限価格を超えて取引されるロシアを原産地とする原油の輸入禁止措置に対する税関の対応について」)が公開されています。

迂回輸入を防止する観点から、税関の審査や検査の強化(原産地証明書の提出を求められる場合が生じるなど。)が図られることが予想されますので、書類等の準備や申告時期の前倒し等の対処が重要になると思われます。

今後、対ロシア制裁に関する新しい輸入に関する措置が実施された場合は、このブログを随時更新していくつもりです。

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ウクライナへのロシアの侵攻に関する日本政府の制裁に関しては、輸出に関するもの、輸入に関するもの、支払規制、支払い手段や貴金属の輸出規制など、多岐に亘ります。その全体像を知るうえで、以下の当ブログも是非、ご参照ください。

2022.3.15 対ロシア制裁に伴う輸出入規制の内容

2022.3.30 対ロシア向け奢侈品や貴金属などを輸出禁止に

2022.4.15 対ロシア制裁としてウオッカや木材等を輸入禁止に

2022.4.23 ロシアを原産地とする品物はWTO税率不適用に

2022.5.22 ウクライナに侵攻したロシア等への(輸出)制裁まとめ

【お断り】2022年12月29日から、当ブログにおいて、輸出に関するロシア制裁関連記事は、「ウクライナに侵攻したロシア等への制裁(輸出)まとめ」にまとめ、輸入規制に関する記事は別途、こちらにアップすることとしました。

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ご意見やご質問などがございましたら、当方の業務内容やプロフィールに一度目を通されて、どうぞ、電話やメールで、お気軽にお寄せください。(→ お問い合わせ

また、私は輸出入通関手続の全般に関して、実務上の問題点の洗い出しや課題の解決に向けたアドバイスが可能です。詳細は、こちらをご覧ください。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net

(最終更新:2023年2月16日)

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