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AEO認定事業者

対ロシア制裁としてウオッカや木材等を輸入禁止に

突然、ロシアがウクライナへ侵攻して50日ほどが経過しました。これに関連するニュースの凄惨さが日増しに酷くなって来るようで、時々、番組の途中でテレビを消してしまうことがあります。

まして、戦争の首謀者の顔は見たくない。北朝鮮指導者の顔も同様ですが、テレビはどうしてそういう画像を流し続けるのか、理解に苦しみます。

ウクライナの人々の毎日の苦しみや悲しみ、戦う姿などは、もっと他の映像で十分伝わると思います。

「輸入公表」の2の第1に追加された。

さて、今回は、4月12日に政府が発表したロシアからの輸入禁止措置に関して取り上げたいと思います。実施は、4月19日からです。

ただし、4月19日より前に輸入契約を行った場合は、7月18日までに輸入するものについて規制対象外となります。

今回の制裁の建付けは、外為法第52条を受けた輸入貿易管理令(輸入令)第3条と同第4条基づく「輸入公表」(改正前の告示 → こちら)の改正によります。

つまり、今回は品目が限定されていますが、2月26日付けで行った、ウクライナの親ロシア地域(「ドネツク人民共和国」を自称する地域と「ルハンスク人民共和国」を自称する地域)からの全品目の輸入禁止措置と、ほぼ同じ対応です。

当該品目は、輸入令第4条第1項第2号に基づく「2号承認品目」として、輸入に当たって経産大臣の事前の承認を必要とする貨物です。また、その承認をしないこと(→ 経産省の通達)によって、実質的に輸入禁止になります。

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ロシアからの38品目を輸入禁止にした。

この「輸入公表」の「2の第1」には、北朝鮮からの全貨物、クリミア半島地域からの全貨物などが掲げられており、そこに、ロシアを原産地又は船積地とする38品目が追加されました。

具体的には、次の物品になります。頭にHSを付した番号は、関税率表(→ 2022年版実行関税率表)の番号です。また、その横に( )で記載した品名は、分かりやすいように私が実行関税率表の内容や解説などから一部を抽出したものですので、正確な品名ではありません。ご注意ください。

アルコール飲料 6品目

HS 22.03(ビール)

HS 22.04(ワイン)

HS 22.05(ベルモットその他のぶどう酒)

HS 22.06(りんご酒、梨酒、ミード及び清酒その他の発酵酒)

HS 2207.10(エチルアルコール)

HS 22.08(ウイスキー、ジン、ウオッカ、リキュール)

木材(チップ、丸太及び単板等) 4品目

HS 4401.21(針葉樹のチップ)

HS 4401.22(針葉樹以外のチップ)

HS 44.03(原木、木材、丸太)

HS 44.08(化粧板用、合板製造用又はその他の用途の単板)

機械類・電気機械 28品目

HS 84.07(ピストン式のエンジン及びロータリーエンジン)

HS 84.09(エンジンの部分品)

HS 84.12(ジェットエンジン、ロケットエンジンなどその他のエンジン)

HS 84.13(液体ポンプ)

HS 84.14(気体ポンプ、真空ポンプ)

HS 84.15(エアコン)

HS 84.18(冷蔵庫、冷凍庫)

HS 84.19(湯沸し器、温水器、乾燥機、熱交換器)

HS 84.21(遠心分離機)

HS 84.22(皿洗機、皿洗乾燥機)

HS 84.24(噴射用、散布用又は噴霧用の機器、消火器)

HS 84.28(持上げ用、荷扱い用、積込み用又は荷卸し用の機械)

HS 84.31(これらの部分品、附属品)

HS 84.43(印刷機、プリンター、複写機、ファクシミリ)

HS 84.50(洗濯機)

HS 84.62(鍛造機、ハンマー及び型鍛造機等の金属加工機械)

HS 84.66(これらの部品、附属品)

HS 84.71(コンピューター)

HS 84.73(コンピューター等の部分品、付属品)

HS 84.77(ゴム又はプラスチックの加工機械やこれらの物品の製造機)

HS 84.79(その他の機械類)

HS 84.81(コック、弁その他これらに類する物品)

HS 84.82(玉軸受(ボールベアリング)及びころ軸受)

HS 84.83(ギヤボックスその他の変速機、カムシャフト、クランク、歯車など)

HS 87.03(乗用自動車その他の自動車)

HS 87.08(自動車の部分品、附属品)

HS 87.11(モーターサイクル)

HS 87.14(モーターサイクルの部分品、附属品)

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原産地又は船積地の解釈は厳格になされる。

ここで、いくつか注意すべきことがあります。

まず、この規制は、ロシアを原産地とする品物のみならず、ロシアの港で船積みされた品物を含みます。

そして、この輸入令上の原産地と船積地の解釈は、2007年の通達(→ 「原産地及び船積地の解釈について」)によることになります。

この場合の「原産地」とは、原則として、当該貨物の生産、製造又は加工が行われた場所の属する国又は地域をいい、関税法上の原産地の定義(同施行令第4条の2第4項)と同じです。

ただし、委託加工契約(所有権の移転がないもの)により加工された貨物については、加工前の品物の原産地を当該貨物の原産地とするとしていますので、ご注意ください。

また、「船積地」は、基本的には、現実に貨物が船積みされた港がある国又は地域のことであって、船荷証券(B/L)に記載された船積港が認定の基準となります。

よって、通し船荷証券(Through B/L)又は積換え船荷証券(Transfer B/L)における積替え港は船積港とはなりません。

ロシアの港で積み替えられた貨物で、この通し船荷証券(Through B/L)等がない貨物については、当該積替え港で「積替えしか行っていない」ことの証明などを求められる場合があります。

郵便による輸入の場合には「外国郵便小包受取証(小包ラベル)」の発行地のある国又は地域です。

航空便による輸入の場合には、「航空積荷受取証(AWB)」の発行地のある国又は地域を船積地となります。

税関の審査、検査なども強化される。

また、以前のブログでも触れたように、税関では、今回の輸入禁止措置を受けて、注意喚起がなされています(→ こちら)。

ロシアを原産地又は船積地とする特定の品目について輸入が禁止される訳ですから、当該品目に「HS分類上で近接する」品物や、ロシアに近い国や地域からの輸入貨物については、税関の審査、検査の頻度が増す可能性があることを念頭に、早めの対応や原産地証明書の取得などいつもより丁寧な対応が望ましいと言えます。

その他、今回の措置に伴って、経産省が公表した参考資料(→ こちら)にも「注意点・補足点」として掲げられていますが、個人用の品物(個人的使用に供せられ、かつ、売買の対象とならない程度の量の貨物)は非該当となります。

一方、「2号承認貨物」は全部同じ扱いですが、少額特例(輸入令第14条第1項、別表第1の1号)は適用されません

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資産凍結されたロシアの人々にも注意が必要。

この輸入禁止措置と同時に決まった「資産凍結等の措置」(→ こちら)について、少し触れたいと思います。今回の資産凍結措置に対応して、財務省は関連する告示(→ 財務大臣の許可を受けなければならない支払を指定する告示)を改正しました。

資産凍結の対象となった、個人などへの支払いが許可制になった(多分、許可されない。)ことから、輸入貨物の支払いを行う国内の銀行での審査が厳しくなり、場合によっては貨物代金の支払い先に関する追加資料等の提出を求められるなどのことも予想されますので、こちらも、輸入者の皆さんは、少なくとも、心の準備は必要でしょう。

ウクライナへのロシアの侵攻に関する日本政府の制裁に関しては、輸出に関するもの、輸入に関するもの、支払規制、支払い手段や貴金属の輸出規制など、多岐に亘ります。

その全体像を知るうえでは、以下のブログも是非、ご参照ください。

2022.3.15 対ロシア制裁に伴う輸出入規制の内容

2022.3.30 対ロシア向け奢侈品や貴金属などを輸出禁止に

今後も、関税暫定措置法の改正によるロシア産貨物に対する「WTO協定税率」の不適用などについて、法案が成立した後で、解説などを試みようと思っています。

(令和4年4月20日に、該当の改正法が成立しました。実施は、4月21日から令和5年3月31日までです。改めて、こちらのブログ(→ ロシアを原産地とする品物はWTO税率不適用に)で解説しています。)

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(最終更新:令和4年4月25日 午後4時00分)

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