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AEO認定事業者

大麻を密輸入した場合の罪と罰

先月の半ば、日本経済新聞に、「タイ、大麻中毒者4倍に 解禁後半年、政権内に亀裂」という見出しの記事が載っていました。(⇒日経会員限定記事「タイの大麻中毒者4倍に・・・」

内容は、タイで医療目的の大麻が合法化されて約半年を経過し、同国内の大麻中毒者が激増しているというもので、その記事の中に、「日本人が海外で大麻を所持した場合は、日本の大麻取締法で処罰される可能性がある。」と記述されていました。

今回は、その辺りのことを含め、大麻を密輸入した場合の罪と罰を解説してみたいと思います。

大麻取締法上の国外犯の処罰

まず、大麻は大麻取締法第3条と第4条で、その所持、譲り受け、譲り渡し、輸入及び輸出等が禁止されています。そして、これらの行為を「みだりに」行うと、同法第24条以下で処罰されることとなっています。(⇒大麻取締法

国外犯の規定は、同法第24条の8で、「刑法第2条の例に従う。」と規定されています。

一方の刑法では、第2条で「この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。」として、内乱等の罪、通貨偽造・同行使の罪、公文書偽造等の罪などが掲げられています。(⇒刑法

以上によって、大麻を国外で所持、譲受、譲渡した場合は、5年以下の懲役刑が科されることとなります。また、もし、これが営利目的であった場合は、7年以下の懲役刑又はこれに200万円以下の罰金刑を併科するとしています。

ちなみに、大麻取締法第24条では、「みだりに、栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出した者は、・・・」とされており、外国への輸入や、外国からの輸出も処罰されるので、国外犯の規定と相まって、外国で密輸入行為を行った者を日本の法律で処罰できるようになっています。

関税法上の罰則は10年以下の懲役と3,000万円以下の罰金

大麻は関税法上の「輸入してはならないもの」に該当します。(⇒関税法第69条の11

そして、「輸入してはならないもの」を不正に輸入する罪は、関税法第109条において、以下のように規定されています。

第109条 第69条の11第1項第1号から第6号まで(輸入してはならない貨物)に掲げる貨物を輸入した者は、10年以下の懲役若しくは3,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

2 第69条の11第1項第7号から第9号まで及び第10号に掲げる貨物を輸入した者は、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

3 前2項の犯罪の実行に着手してこれを遂げない者についても、これらの項の例による。

4 第1項の罪を犯す目的をもってその予備をした者は、5年以下の懲役若しくは3,000万円以の罰金に処し、又はこれを併科する。

5 第2項の罪を犯す目的をもってその予備をした者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

大麻は、覚醒剤やヘロイン、コカインなどの麻薬、向精神薬、あへんなどと同列に、この関税法第69条の11第1項第1号に掲げられているので、この関税法第109条第1項(10年以下の懲役と3,000万円以下の罰金)が適用されることとなります。

「併科する」というのは、両法の罰則を科す、ということです。これまでの不正薬物の密輸事犯の判例などを見ていると、この懲役刑と罰金刑の両方が併科されるケースが多いように思います。(⇒向精神薬の密輸事犯の判例

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未遂罪も罰せられる

上記関税法第109条第3項に、「犯罪の実行に着手してこれを遂げない者についても、これらの項の例による。」と規定されています。つまり、未遂罪も罰せられるということです。

当たり前のようですが、罪を犯した場合(既遂)が処罰されることは当然として、途中で止めて、結果として犯罪に至らない状態でも処罰されるということです。

社会に対して相当の危険が生じたことを重視していると思いますが、犯罪の重大性に応じて、未遂が処罰される罪とそうでない罪があり、不正薬物等の密輸事犯は重大な犯罪の一つだということです。

他の罰則でも同様でしょうが、犯罪行為に着手して、その後、行為の途中で自戒の念に囚われて自分で止めた場合も、たまたま何かの事情で止めざるを得なかった場合も、いずれも未遂です。

また、税関の貨物検査で発覚して密輸できなかった場合も、「その意を遂げなかった」ということで未遂罪に問われることになります。

まあ、その辺りのことは、裁判等において、量刑の段階で斟酌されるとは思いますが、関税法で処罰されるということに違いはありません。

予備も罰せられる

上記関税法第109条第4項、第5項に、「・・・の罪を犯す目的をもってその予備をした者は、・・・」とあります。

この意味は、不正薬物等の密輸事犯は、実行に着手する前の段階で、予備行為をしただけでも罰せられる、ということです。

罰則は、やや軽減されていますが、「未遂以前の段階」でも処罰の対象であるということは、それだけ、重大な犯罪であるということを意味しています。

刑法でも、予備罪が規定されているのは、内乱・外患、殺人、放火、強盗、通貨偽造、凶器準備集合等の一部の凶悪犯罪に限られています。

ここで問題になるのは、実際のその行為が、密輸入の「実行の着手」に至っていたかどうかです。

例えば、外国に旅行して、自分が密輸する大麻を購入した時点、その密輸に使用する道具として民芸品を購入した時点、その民芸品の中に大麻を入れるため細工をした時点、密輸する大麻をその中に隠した時点、大麻を中に入れた民芸品を日本に発送するために外国の宅配業者に運んだ時点、その宅配業者に実際に日本への発送を依頼した時点、その荷物が日本に到着した時点、日本側の宅配業者が税関に民芸品として申告した時点、輸入が許可になった時点、大麻が入っている民芸品が日本の宅配業者によって配達された時点、それを受け取るために伝票にサインした時点、などです。

受け取れば、多分そこで密輸の既遂になるでしょうが、その前の段階のどこかで、予備になり、未遂になった時点があるはずです。

勿論、大麻の密輸をしようと考えただけ、計画しただけでは犯罪になりません。その考えに向けて行動をとったとき、以降の問題です。

でも、ひょっとすると、状況によっては、もっと前の段階で予備罪が成立するかもしれません。例えば、誰かと共謀して密輸を図ったケースで、日本で、外国に出発する前に、大麻を買うためのお金を出し合った時点などです。

共犯(正犯、教唆犯、従犯)も処罰される

また、いろいろな証拠資料から、誰かが共犯者として立件される状況であれば、その人は刑法第60条以降の共犯者として処罰されることになります。(⇒再び刑法

一つの罪を共同して犯した場合は、単純に「共謀共同正犯」として罪に問われることが多いと思います。

つまり、何人かが集まって大麻を密輸入する計画を立て、誰か又はその内の何人かが外国で大麻を購入して日本に送る役、誰かが日本で受け取る役、誰かが日本で売りさばく役など、役割分担して密輸が実行され、最終的にそれで得た金を山分けした、とすると、その全員が、その密輸事犯の犯人だということです。

それぞれが裁判で言い渡される刑の量刑は、その担った役割によると思います。

さらに、そのバックに、「こうすれば密輸入がうまくいくからやってみろ。」と、そそのかした者がいた場合は、「教唆犯」(刑法第61条)ということになるかもしれません。教唆犯は、正犯に準ずるので、同じ基準で処罰されることになります。

単に、事情を知りながら手伝ったという場合はどうでしょう。例えば、大麻を外国で買うときに通訳をしただけだった、とか。

こういう場合、従犯(ほう助犯)(刑法第62条)ということになるかもしれません。

従犯の場合は、正犯よりも量刑が軽くなります。でも、犯罪に加担したことに他なりません。

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保管しただけ、運んだだけでも処罰される

共犯関係までいかなくとも、例えば、密輸した大麻を頼まれて預かっただけ、という場合はどうでしょうか。この場合は、刑法の共犯ではなく、関税法の「贓物犯(ぞうぶつはん)」になります。

関税法第112条第1項には、以下のとおり規定されています。

第112条 ・・・第109条第1項若しくは第2項(輸入してはならない貨物を輸入する罪)・・・の犯罪に係る貨物について、情を知ってこれを運搬し、保管し、有償若しくは無償で取得し、又は処分の媒介若しくは斡旋をした者は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

この「情を知って」というのは、「それが密輸品であることを知っていて」と、いうことです。

なので、例えば、友人から荷物を明日まで保管しておいてくれ、と言われたとき、その中身が密輸入された大麻だと知りつつ預かっていた場合などが該当するでしょう。

或いは、それが大麻とは知らず、密輸入された偽ブランド品だと思っていた、としても、この贓物罪に問われる可能性はあるように思います。

大麻取締法と関税法の両方で処罰されるのか

最初に申し上げたように、日本に大麻を密輸入する行為は、大麻取締法で禁止されており、処罰されます。

関税法でも「輸入してはならない貨物」を輸入した罪で処罰されるので、では、両法で処罰されるのでしょうか。

つまり、大麻取締法第24条の懲役刑7年と、関税法第109条の懲役刑10年の合計で、懲役の最長限度は17年以下になるのでしょうか。たぶん、そうはならないでしょう。

一つの行為が複数の罪に該当する場合は、普通、「観念的競合」と判断されて、その罰則の最も重い法律で処罰される(科刑上一罪)ことになると思います。

つまり、大麻を密輸入した場合は、おそらく関税法のみで処罰されることになるということです。

密輸入を3回に分けて行えば3件の犯罪になる

では、例えば、3kgの大麻の密輸を1kgずつ3回に分けて行った場合はどうか。

この場合、その全てについて調査が行われ、密輸入の罪として成立するときは、合計3件の密輸入罪として起訴されることとなり、最終的に処罰は加重されることになります。

どの程度加重されるかは、その密輸入量や行為の悪質性など、犯罪の状況にもよると思いますが、罪数が多くなるほど、量刑は重くなると見てよいでしょう。

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A国から大麻をB国に密輸入したらどうか

では、例えば、タイで入手した大麻を、一旦中国に密輸入して一時保管し、日本に密輸しようとしていて中国で摘発された場合はどうでしょうか。

関税法上、「輸入」というのは、簡単にいうと、「外国から本邦に到着した貨物を本邦に引き取ることをいう。」とされています。よって、日本の関税法で処罰されることはなさそうです。

でも、大麻取締法では、前に述べたように、タイで購入して所持する行為も、同国から中国に向けて輸出する行為も、中国で輸入する行為も、全て国外犯として同法の罪に当たります。

勿論、中国で犯した犯罪については、中国の法律によって摘発され、調査を受け、起訴され、懲役刑などの刑に服すことになるでしょう。

そうした場合は、外国の方がはるかに厳しい刑罰を科すことが少なくありませんので、相当の期間、苛烈な人生を過ごすことにならざるを得ません。

外務省でも、注意喚起しているように、外国で密輸犯として(疑いでも)捕縛されると、まさに悲劇だという話はよく聞きます。(⇒外務省の注意喚起「海外での薬物犯罪・違法薬物の利用・所持・運搬」)

大麻というのは、結構匂いが強い薬物です。

タイで、大麻を吸っている人と長時間一緒に過ごして、その匂いがぷんぷんする服を着て中国の空港で乗り換える時に、税関吏や警察官に疑いをもたれただけで、ヤバい気がします。ご用心を

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宜しければ、以下の当ブログも、ご参照ください。

2020.11.2 大麻(THC)は、酒やタバコより有害か。

2021.6.13 輸入してはならない貨物を知ろう

2021.6.29 偽札も偽カードも偽ブランドも、勿論、輸入してはならない

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(最終更新:2023/2/15)

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