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AEO認定事業者

令和3年度の関税、税関手続、模倣品取締りの方向性を見る。

財務省には、関税率審議会という関税政策や税関行政に関する制度改正の諮問機関があります。

メンバーは、大手民間企業や経済団体、マスコミなどの所謂有識者の皆さんで、半年程度を費やして、関税率(暫定税率)等の改正やその時々の主要施策のあり方等について真剣に議論してもらいます。その上で、毎年12月の前半に、次年の通常国会での審議を目指した答申を財務大臣に提出します。

今年の答申は、12月10日でした。(→ こちら

今回は、その答申の内容から、気になるものを抜粋して皆さんに少しご紹介したいと思います。

暫定税率の適用期限の延長など

関税率には、基本税率、暫定税率、協定税率及び特恵税率の4種類があり、貨物の原産地や輸入の時期等によりつつ、いずれか低い税率が適用される仕組みになっています。

このうち、暫定税率とは、ある物品の関税率が私たちの生活に大きく影響することが予想される場合に、機動的に上げ下げできるよう1年間の期限を区切って設定されるものです。現在、

  • ナチュラルチーズなど関税割当品目(157品目)、
  • 米、麦などの国家貿易品目(86品目)、
  • 砂糖類など農水省が調整金を徴収するために税率を下げる必要があるもの(99品目)、
  • 牛肉、豚肉、紙巻たばこなど、WTO関税引下げ交渉等の中で協定税率より関税率を下げる約束をしたもの(54品目)、
  • 国内価格の安定化のために価格帯に応じて上下する関税率を設定するもの(たまねぎ2品目)、
  • プラスチック原料など、国内産業の状況を見て、とりあえず基本税率よりも低い税率を設定しておくもの(18品目)

の、合計416品目となっています。

これらの品目は、現状、来年の3月末日が適用期限のため、今回の答申で、再来年の3月末まで期限を延長するべき、とされました。

ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋(PVC手袋)の関税率の無税化。

日本では、新型コロナウイルス感染症の拡大が引き続き深刻な状況に及んでいて、その対応に当たる医療機関の皆さんには本当に頭が下がる思いです。

一般的な医療機関や介護現場で使用されているPVC手袋については、現行、そのほぼ全てを中国やベトナムからの輸入に頼っていながら、5.8%の関税率が設定されています。

これを無税にする答申がなされています。

本来、国内需要のほぼ全てが輸入品であれば、関税率を有税にしている意味はなかった訳ですが、今回の無税化は、世界的に需要が急増し、調達価格も急上昇しているという状況も影響しているようです。

一方、このPVC手袋については、国民全体の健康・安全政策の観点から、今、その生産の国内回帰を促すべく補助金が設定されていることもあって、基本税率の無税化ではなく、1年間の暫定措置としての無税化になったようです。

では、同じように国内回帰が進んでいるマスク(HS6307.90協定4.7%)はどうなのか。医療用ガウン(HS3926.20、協定4.8%)はどうか、と考えますよね。

マスクについては、PVC手袋と異なり、既にその国内生産化が相当進んで来ているという状況を踏まえれば、現時点で、無税化は不要とのことのようです。

医療用ガウンについては審議会の議論の中で、特に質疑応答もなかったので、状況がよく分かりませんでした。

chemist- Yerson Retamal, Pixabay 1636371_1280
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HS条約の改正に応じた関税率表の改正。

日本を含む殆どの国は、輸入貨物の関税率表(輸出の場合は、輸出統計品目表)を「商品の名称及び分類についての統一システムに関する国際際条約(HS: Harmonized System 条約)」の付属書である「HS品目表」を元に作成しています。

このHS品目表の最新版は、本年1月に条約加盟各国により受諾され、再来年(2022年)1月1日から適用されることが決定しています。

要は、これに合わせて現行の関税率表を改正するべし、という答申です。

このHS2022では、351品目に及ぶ改正がなされており、その概要は、WCOのホームページ(→ こちら)からも確認できます。

具体的には、

  • E-Wasteと呼ばれる電気・電子廃棄物
  • 電子タバコ
  • ドローン
  • スマートフォン
  • フラットパネル等の多目的中間部材
  • 感染症診断キット
  • 放射性物質・生物兵器・化学兵器関連物品などテロ関連品目
  • 合成麻薬
  • オゾン層破壊物質

など多岐にわたります。

ただ、HS品目表の改正は基本的に税率の見直しを伴わないので、例えば、ある品目が細分化されると、税細分や統計細分で多くの品目に影響する場合があり、税率表(統計品目表)としては複雑化する傾向があります。

通関時における関税等の納付手段の多様化。

今、一般の輸入通関は、NACCSによるシステム申告が殆どで、納税も、口座引落しやMulti Payment Systemなどのキャッシュレス納付が可能となっています。

ところが、海外旅行から帰国した際の納税は、現金を銀行の窓口で納付する方法がとられています。こうした前時代的な取扱いは、早期に改める必要があります。

来年度からは、クレジットカード払いやスマホを利用したキャッシュレス納税が可能となるでしょう。

勿論、今の新型コロナウイルス感染症の蔓延状況を踏まえれば、海外渡航が本格的に再開するかどうか別にしても、非接触型の納税ができる方がいいに決まってますね。

wallet-Steve Buissinne, Pixabay 908569_1280
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個人使用の模倣品(コピー商品)取締りへの対応(検討事項)。

現行の商標法、特許法、実用新案法、意匠法においては、「業として」という文言を“前提”としている関係で、「個人使用目的の模倣品は税関の取締りの対象外」とされています。

このため、実務現場では、個人使用か否かの争いになる訳で、税関にとってのみならず、権利者にとっても、輸入者にとっても不効率極まりない状況になっています。

この点について、「知的財産推進計画2020」(→ こちら)においては、権利者の被害状況や諸外国の状況等を踏まえて検討するとされています。

現状、例えば、米国では、個人使用目的による模倣品の輸入を税関で差し止めることは可能です。ただし、海外旅行者の携帯品等の場合は、一定数量を超える場合とされている模様です。

EUでは、やはり「業として」の輸入を取り締まっています。こちらは、海外の送り手の行為を「業として」と捉えて、個人使用でも商標権の侵害であると認定しているようです。

このため、日本でも、海外事業者が日本人の買手に模倣品を直送するケースについては、贈り手の行為を商標検討の侵害行為に位置付ける方向で法改正が検討されています。

よって、今回の答申では、その商標法等の改正があれば、速やかに税関も対応できるようにしておきなさい、と述べられています。

以上の審議会の検討状況などは、財務省の公表ページ(→ こちら)から、結構詳細に知ることができますので、興味のある方は、ご覧いただければと思います。

※ 模倣品の見分け方などについては、過去のブログ「EC、ネットショップでニセモノ(偽物と偽者)をどう見分けるか」(→ こちら)もご覧ください。

(最終更新:2021年1月3日)

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