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密輸取締り

輸入してはならない貨物を知ろう

空港などで、税関職員が「あいつはクサイ。」と言えば、「麻薬等を密輸しようとしている者ではないか。」という意味ですが、捕まえてから、本当に「クサイこと」になる場合が往々にしてあります。

密輸の手口はいろいろあるが

例えば、空港で、覚醒剤を飲み込んで密輸入しようとして税関に捕まった場合、その覚醒剤(ブツ)は税関が差し押さえます。

「飲込み」は、英語で、swallowing と言いますが、つばめ(swallow)と同じですから、イメージがとても分かりやすい。

で、飲んでいるから吐かせる訳ですが、この場合、「とっとと吐け。」というのは、取調べにおいて、「私は、故意に覚醒剤を密輸しようとして、税関に捕まってしまいました。」と言ってもらうことを意味しています。

つまり、「自白しろ。」です。

飲んでいる「ブツ」は、大体、繭玉か、大人の親指程度の大きさで、多いときは一人で100個以上飲んでいるときがあります。

こちらは、「吐け。」と言っても殆ど無理な状態で、下から出てくるのを待ち受けるしかありません。

詳しい話は書けないですが、出て来たモノは、全て大事な証拠物件ですから、若手の税関職員が、目に沁みるような匂いを我慢しながら、長いゴム手袋をした手で、一つひとつ慎重に洗っていく訳です。

看護師や介護士の皆さんの仕事と共通するところがあるかもしれませんが、税関職員にも結構な使命感が必要です。

では、身柄(ガラ)はどうなるでしょう。ちなみに、税関職員は司法警察職員ではなく、従って逮捕権はありません。

逮捕には、大きく分けて通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の三つがありますが、現行犯逮捕は、犯罪が目の前で起きている状況なら誰でもできます。

よって、税関職員が私人の立場で現行犯逮捕することは可能です。

ただ、いろいろな理由から、税関の通報を基に警察官や麻薬取締官(厚生労働省)が裁判官の令状を取得の上逮捕して、ガラを引き取る、ということが多いと思います。

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さて、今回は、覚醒剤を含む、輸入してはならない貨物のお話です。

関税法第69条の11第1項に、「輸入してならない貨物」として掲げられています。

麻薬及び向精神薬、大麻、あへん(阿片)及びけしがら(芥子がら)、覚醒剤(覚醒剤原料を含む。)、あへん吸煙具

第1号に、麻薬や覚醒剤等のいわゆる不正薬物が掲げられています。

麻薬と向精神薬は「麻薬及び向精神薬取締法」とその政令で指定されています。

麻薬ではヘロイン、モルヒネ、コカイン、メサドンなどがよく知られています。向精神薬はジアゼパムなどの抗不安薬などですが、医師が処方するものです。

大麻は「大麻取締法」で、あへんと芥子がらは「あへん法」で、覚醒剤は「覚醒剤取締法」で、いずれも別途輸入が規制されています。

密輸入が摘発された麻薬や覚醒剤等の形態は様々で、税関ホームページの「各税関における摘発事例発表」(→ こちら)から、いろいろ見ることができます。

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指定薬物

第1号の2に、いわゆる指定薬物が掲げられています。具体的には、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法、薬機法ともいう。)」第2条に規定されているものです。

かつて「脱法ドラッグ」、「合法ドラッグ」などと言われていた合成麻薬類と同種の物質(危険ドラッグ →こちらを参照)を指します。

法規制に合わせて変異していくところが新型コロナウイルスとも似ていますが、麻薬等とは規制の仕方が異なるだけで、社会に深刻な害を及ぼすことに変わりはありません。

こちらも、摘発事例は、先ほどのホームページから沢山見ることができます。

拳銃、小銃、機関銃、砲、銃砲弾、けん銃部品

2号には、拳銃等の小火器等が掲げられています。

このうち、拳銃や小銃などは、「銃砲刀剣類所持等取締法」(埼玉県警のページ→ こちら)で規制されています。

銃砲弾は、「火薬類取締法」による規制物品です。

これらは、勿論、対テロの観点で、輸入してはならない貨物に指定されています。

爆発物

3号には爆発物が規定されています。「爆発物取締罰則」という、明治時代の太政官布告(→ こちら)で規制されている爆発物を指します。

前号の銃砲弾と次号の火薬類に該当するものは除かれます。

この爆発物から、次号の火薬類と次々号の化学兵器の原料物質までの3項目は、特に、2001年の米国における同時多発テロ以降に、対テロ取締りの強化の観点で、2005年度の改正で輸入禁制品(当時は、関税定率法第21条で規定)に追加されたものです。

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火薬類

4号は、火薬類です。「火薬類取締法」(→ こちら)で規制する火薬、爆薬、雷管等の火工品を指します。

爆薬のうち、破壊力の大きなものは爆発物とも言えますが、硝安爆薬やダイナマイトなど本号に分類されるものは前号の爆発物からは除かれます。

一方、「核爆発物」は火薬ではないので、破壊力の大小に関係なく前号の爆発物に分類されます。

化学兵器の原料物質

5号には、化学兵器の原料物質が掲げられています。

「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律」に規定される物質で、化学兵器禁止条約(→ こちらを参照)の規定に即した規制となっています。

具体的には、かつて日本を震撼させたテロ事件に使用された「サリンガス」や、先般、クアラルンプール国際空港ターミナルで使用された「VXガス」のほか、今も中近東で使われる「マスタードガス」や「塩素ガス」等の毒ガス兵器の原料物質が該当します。

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病原体

5号の2には、生物兵器の原料である病原体が掲げられています。

具体的には、「感染症予防法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)」で定める一種病原体等(ラッサウイルス、エボラウイルス、痘そうウイルスなど)及び二種病原体(ペスト菌、ボツリヌス菌、SARSコロナウイルス、炭そ菌など)を指します。

ちなみに、新型コロナウイルス感染症の病原体(ベータコロナウイルス属)は、四種病原体等に該当する(→ こちらの資料が分かりやすい)ので、本号で規制することはできないでしょう。

感染症に罹患して、病原体を体内に保有している人は、検疫法でカバーされているはずです。

その規制内容は、今は頻繁に修正されていると思いますので、気になる方は厚生労働省のホームページ(→ 少し古いかもしれませんが、こちらが分かりやすい)でご確認ください。

「輸入してはならない貨物」は、以下、

6号 貨幣、紙幣等の偽造品等

7号 公安又は風俗を害する書籍等

8号 児童ポルノ

9号 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又は育成者権を侵害する物品

10号 不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号まで、第10号、第17号又は第18号に掲げる行為を組成する物品

と続きますが、説明すると長くなるので、後半の解説は、次回にまわしたいと思います。

さて、ここまで見ていただいてお分かりのように、「輸入してはならない貨物」は、それぞれ、関税法とは別の個々の法令で「輸入を禁止」しているものばかりです。

関税法で、いわば多元的に「輸入してはならない」と定めているのは、国境を守る税関職員の取締りの対象とすることで、日本社会に入れさせないことを、より確かなものにしているのだと言えます。

シロウトがリクルートされる。

また、犯罪組織の資金源として重要な要素である麻薬や覚醒剤は、シロウトが運び屋としてリクルートされるケースが後を絶ちません。

特に、昨年以降続いている新型コロナ禍で、一時的に収入が減少した若者が狙われる可能性は大いにあると思っています。

海外旅行だけでなく、郵便路線や国際宅配便等を利用した輸入も、手軽に行える分、誰でもそうした罠に落ちる恐れがあります。

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こうしたことの未然防止には、行政による十分な経済的バックアップと物質的、精神的フォローが必要だと思います。企業においても、リモートワークや在宅勤務の増加に応じて、ネット環境に潜む罠に関する社員教育が重要だと思います。

また、従業員に万一のことが発覚したときに、「輸出又は輸入してはならい貨物」に関する教育実績がない、或いは十分でないと判断されることは、それ自体、輸出入者、通関業者、保税事業者としては大きなリスクになります。

私も、そうした教育については、ご相談に応じています。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net

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