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AEO認定事業者

輸入の予備申告と通関士試験

 前回は、輸出入の「自由化申告」が原則だと思って、通関士試験を受験すると間違えるかもしれない、という話しをしました。

今回も、同様に、普段から「予備申告」に慣れている通関業従業者が通関士試験を受ける場合は気を付けてください、というお話しです。令和4年の通関士試験は10月2日(日)に実施されます。(→第56回通関士試験案内)

輸入の予備申告は、輸入申告か

「予備申告」という制度も、関税法にその規定はありません。「予備審査制について」(平成12年3月31日付蔵関251号)(→ こちら)という一片の通達によって、実施しているものです。

予備審査制とは、輸入貨物が保税地域に搬入される前に、予備的に申告すること(予備申告)を認める制度です。

言い換えれば、関税法の規定で輸入申告を行うことができると定められている時より前に、予備申告書の提出を認め、輸入申告がなされるまでの間に、税関がこれを審査する制度です。

つまり、予備申告は、輸入申告ではありません。この点を理解しておかないと、通関士試験でひっかけ問題に引っかかる可能性があります。

輸入貨物は搬入後の申告が原則

関税法では、輸入申告は原則として貨物を保税地域に入れた後に行う必要があります(関税法第67条の2第3項→ こちら)。

例外は、あらかじめ「本船扱い」や「ふ中扱い」の承認を受けたとき、或いは特別の場合に認められる「到着即時輸入許可扱い」や「搬入前申告扱い」の承認を受けたときです。

予備申告には要件があります。それは、貨物が保税地域に入る前であっても良いが、輸入申告予定日における為替レートが公示された日か、又は貨物の船荷証券(航空貨物の場合はAir Waybill)が発行された日のいずれか遅い日以降でなければできない、ということです。

また、予備申告した貨物が保税地域に搬入されたら、本申告に切り替えることにより、「輸入申告」ができます。

kids-svklimkin, Pixabay 1093758_1280
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輸出貨物は搬入前の申告が原則

一方、輸出貨物については、予備申告(予備審査制)制度はありません。なぜなら、平成23年に「輸出貨物の保税地域搬入原則」が見直された結果、同年10月から、保税地域への搬入前に輸出申告が可能となったからです。

それまでは、輸入申告と同様に輸出申告にも予備審査(申告)制度があったのですが、今は、保税地域に入れる前の申告が「本申告」で、当該申告貨物を搬入したあとで、必要に応じて税関の検査が行われ、その後輸出許可になります。

よって、例えば、輸入は予備申告(搬入前)した貨物であれば、他法令上の許可や承認を受けている旨の証明は搬入時(本申告切換え時)で良いのですが、輸出は、搬入前の申告時にその証明が必要ということになります。

予備申告で搬入前に税関検査の有無が分かる

では、予備審査制の具体的なメリットは何でしょうか。

一つは、税関検査の要否が輸入申告前に判明するということでしょう。貨物が到着する前に、税関検査が行われるかどうか、原則として、予備申告することで分かります。これにより、貨物引取りの段取りが立てやすくなり、配送時期や費用が早いうちに判明します。

詳細は、先ほどの通達によっていただきたいと思いますが、予備申告された貨物の検査の要否(検査扱い及び検査省略扱い)の通知は、これを事前に通知しても差し支えないと税関が判断した場合に、できる限り早い時期に行うこととされています。

ただし、検査要否の事前通知を行った後であっても、必要があると認められる場合には、その内容を変更することができるとされています。

また、その検査は、貨物が保税地域に搬入された後速やかに行われることが基本ですが、他法令手続が終了する前に検査を行うことに危険が伴うと判断された場合は、その他法令手続が終了するまで税関検査を保留することとなります。

二つ目のメリットとしては、他法令手続の同時並行処理が可能だという点が挙げられると思います。

関税法上の原則は、第70条に規定されているように、輸入申告時に他法令上の許可、承認等を受けている旨を証明する必要がありますが、予備申告は、他法令手続が終了していなくとも可能です。

三つ目に、他法令が関係ないか既に他法令上の許可書等を入手している貨物については、通関業者は業務に余裕があるときに予備申告を行っておき、貨物が保税地域に搬入された時点で、自動的に本申告に切り替わるよう設定しておくことができます。

また、この場合、例えば、夕方以降など、税関の執務時間外に本申告に切り替わってほしくないときは、翌日の税関の執務時間の開始に合わせて本申告に切り替わるよう設定しておくことも可能です。

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予備申告は例外的な取扱い

前回のブログでもお話ししましたが、通関士試験を受けるか否かによらず、通関業者にとって、関税法や定率法等の十分な理解は重要です。

そして、その法令について、まず、原則的な取扱いをきちんと押さえておき、例外は例外として理解しておくべきだと思います。

繰り返しになりますが、輸出は搬入前の申告が原則です。

一方、輸出申告した後で搬入された貨物の内容を確認していると、万一修正が必要となった場合に、輸出許可に間に合わない恐れがあるとか、保税地域への搬入時に現物の内容と船積み書類の内容に相違がないことを確認してから申告する方が通関処理も円滑に進むので、保税地域への搬入後に輸出申告することを「原則」としている通関業者も勿論あるでしょう。

輸入は、保税地域への搬入後に申告することが原則です。

予備審査制は、あくまで便宜的に書類を審査しているものなので、例えば、搬入後の状況によって、予備申告の段階で検査不要となった貨物が要検査になる場合もあるでしょう。予備申告は例外的な取扱いなのです。

一方、例えば、予備申告書に分類上のミスが判明した場合であっても、「通関非違」にはならないという点も心得ておくとよいでしょう。

通関士試験に「予備申告」という言葉は出てこない?

輸入通関の実務において、いつもやっていることでも、「予備申告」とか「予備審査制」は法律や政省令には規定されていないものです。よって、通関士試験において、「予備申告」や「予備審査制」という言葉を使って出題されたことは過去殆どないと思います。

勿論、今後は油断できないし、実務上は重要な取扱いなので、先に紹介した通達の内容は十分に理解しておく必要はあります。

特に通関業者にお勤めの方は、輸入貨物の予備申告制度と輸出貨物の搬入前申告の原則を混同しないよう注意してほしいと思います。通関士試験の勉強においては、特に関税法や関税定率法、関税暫定措置法などに記載されている「原則」からきちんと理解して臨んでください。

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ご意見やご質問などがございましたら、当方の業務内容やプロフィールに一度目を通されて、どうぞ、電話やメールで、お気軽にお寄せください。(→ お問い合わせ

通関士試験に関連した当ブログの記事は、以下をご参照ください。

関税法第4条(課税物件の確定の時)の理解について」(通関士試験の受験を目指す方の質問に答えて ①)

輸出入の自由化申告と通関士試験

通関士試験のために、関税法を攻めるコツを

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(最終更新:2023年8月12日)

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