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AEO認定事業者

輸出入の自由化申告と通関士試験

本年の通関士試験は、10月2日(日)に、全国の会場で実施されます(→第56回通関士試験案内)。その通関士試験の問題には出てこない「自由化申告」について、今日は解説を試みたいと思います。

自由化申告とは、何の自由化か。

輸出通関や輸入通関の原則の一つは、その貨物がある場所を管轄する税関官署に申告しなければならないということです。昔から、そう決まっています。

なぜなら、税関職員は、申告された貨物について、価格や品名、数量、税番等に誤りはないか、輸出してはならない貨物や輸入してはならない貨物が混じってはいないか、動植物検疫などの他法令による規制をクリアしているか、又は実際の貨物がその証明書などの内容に合致しているか、などを確認してからでないと、輸出入を許可することができないからです。

税関の検査は、普通、その税関官署の「検査場」で行われます。

つまり、輸出入申告を受理した税関が、「この貨物は検査しますから、検査場へ持ってきてください。」と言ったときに、速やかに、かつ指示されたとおりの貨物を検査場に運び込む必要があります。

勿論、この原則の前提として、輸出入申告された貨物の審査と検査は一つの税関官署が担当する、ということと、その審査や検査を行った税関官署のみが輸出入の許可をすることができる、ということが大原則となっています。

さて、では「自由化申告とは、何の自由化か。」の答えですが、一言でいえば、「輸出申告又は輸入申告の申告先の自由化」です。

先ほど述べた、貨物のある場所を管轄する税関官署だけでなく、それ以外の日本中のどの税関官署に申告しても構わない、ということです。

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自由化申告は、AEO輸出入者やAEO通関業者の特権である。

つまり、この「自由化申告=申告官署の自由化」は、先の原則に対する例外的な取扱いである訳で、例外的な取扱いであれば、そこには「こういった場合ならOK。」という条件(要件)があるはずです。

自由化申告の要件は大きく二つであると言えます。

その一つは、その申告主体が認定事業者(AEO)であることです。輸出の自由化申告であれば、AEO輸出者(特定輸出者)か、AEO通関業者(認定通関業者)に通関手続を委託した者(特定委託輸出者)などである必要があります。

輸入の自由化申告の場合は、申告者がAEO輸入者(特例輸入者)であるか、AEO通関業者に通関手続を委託した者(特例委託輸入者)である必要があります。

二つ目の要件は、輸出入の申告をNACCS(電子申請)で行うことです。

NACCS(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)とは、外国貿易に携わる船舶や航空機の入出港などの手続きや、輸出入される貨物の管理、通関などの行政手続について、通関業者と税関や検疫所などの行政機関、銀行などをオンラインで結び、電子的に処理するシステムです。

行政手続のデジタル化という流れの中では草分け的な存在で、今も社会のデジタル化をにらみながら進化を続けています。

AEOの貨物は税関検査の確率も高くないはず。

では、なぜ、それで自由化申告が可能となったのかを考えます。

一つには、AEO輸出者やAEO輸入者の貨物であれば、輸出入通関の際の税関検査の必要性が相当低くなることが予想されるからです。

AEO輸出者やAEO輸入者は、社内での輸出入手続を含む業務のコンプライアンスを維持し、かつ、その貨物の管理に関して、特に不正薬物等の密輸やテロ防止の観点から、サプライチェーン全体のセキュリティ管理を厳正に行うことを要件として認められる資格です。

このAEOの制度自体、税関の検査を効率的に行う、ハイリスク貨物に重点化するために考え出されたものだと言えます。

AEO通関業者(認定通関業者)の申告の場合も、基本的な考え方は同じです。AEO通関業者であるということ自体、顧客管理がしっかりしていることと、税関検査へのスムースな対応が要件となっているからです。

つまり、こちらも、不正薬物等の密輸やテロ防止の観点で、信用性の低い荷主の依頼は受けないとか、納税に問題のありそうな顧客はいないということが前提であり、また、税関の審査や検査へのスムースな対応や何か問題が発生した際の税関との連携に関しても、法令遵守規則や体制を整えている必要があります。

こうしたことを考慮すれば、貨物のある場所から遠く離れた税関に申告しても、適正かつ迅速な通関処理という視点では、後述するメリットの方が大きいと考えられます。

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NACCS申告(電子申請)に限られる。

また、NACCS申告であれば、申告データが全国の税関で共有されているので、申告先の税関(申告官署)と貨物のある場所を管轄する税関(蔵置官署)の連携が容易です。

自由化申告の場合は、申告官署が、検査すべきと判断した貨物について、何をどの様に検査するかを蔵置官署に伝え、蔵置官署の税関職員が検査を行い、その結果を申告官署に伝えて、輸出入の許可の判断要素とします。

税関検査の際は必ず通関業者等の立会いが必要ですが、その場合も、輸出入申告した通関業者から、蔵置官署に近い通関業者などに、あらかじめ立会い業務を依頼しておけば、迅速な対応が可能です。この場合も、NACCSでの情報共有が役に立つと思います。

申告税関を選べることのメリットは。

では、自由化申告にはどの様なメリットがあるでしょう。

一つには、全国どこにある貨物でも、その輸出又は輸入の申告先税関官署を一つに定めておくことで、通関業者も輸出入手続に関する実働部隊をまとめて配置することができます。

例えば、24時間体制やシフト体制、バックアップ体制を組むこと、BCPを考慮した配置なども容易になります。顧客単位で専門部隊を配置することや、同一ジャンルの貨物で航空貨物と海上貨物の両方を担当する部署を設けるなど、通関業者の実情に応じて、業務の効率化の選択肢が広がると思います。

二つ目は、税関官署ごとの判断のブレが少なくなることが期待できるという点です。

例えば、一つの品物の税番・税率の適用についても、個別の品物に対する品目分類の考え方によって、税関官署による相違があり得ます。そのこと自体は、一面では仕方のないことですが、申告官署が一つであれば、その「安定性」は高まることが期待できます。

また、輸出又は輸入される品目分類のための商品説明や他法令上の取扱いなどについて、複数の税関官署で同じ説明を何度もする手間が減るでしょう。

まあ、申告先税関を「選択」できるメリットは、他にもいろいろありそうです。

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自由化申告は例外的な取扱い。

通関士試験は、基本的に、関税法やその他の法令、通達等の規定について出題されるものだと思います。

そして、法令には、原則的な取扱いがあり、その例外的な取扱いが規定され、また、この「例外の規定」には、同時に「例外の例外の規定」が含まれていることも多いです。さらに、「例外の例外」が「原則」に戻るとは限りません。

なので、通関士試験を受験する方は、まず、原則的な取扱いをきちんと理解しておくべきです。

輸出入の申告官署について、その根拠は、関税法第67条の2第1項において、「輸出申告又は輸入申告は貨物を入れる保税蔵置場等の場所を管轄する税関長に行う」ことと規定されています。

過去の通関士試験でも、この原則は様々な形で出題されています。

これに対して、特定輸出者(AEO輸出者)は、同法第67条の3第1項で「いずれかの税関長に対して輸出申告することができる」と規定されています。この規定が、法的には「輸出申告の(時期の)特例」という制度であり、輸出に係る「申告官署の自由化=自由化申告」の規定です。

一方、輸入申告についても、同法第67条の19において、特例輸入者や特例委託輸入者は、「いずれかの税関長に対して輸入申告できる」としており、これが「輸入申告の(時期の)特例」であり、輸入に係る「申告官署の自由化=自由化申告」の規定となります。

また、認定通関業者にあっては、同法第67条の3第1項と第7条の2第1項に基づいて、特定輸出者や特例輸入者でない者の貨物についても「自由化申告」を行うことができるとされています。

通関士試験に「自由化申告」という言葉は出てこない?

こうして見ていくと、「自由化申告」という言葉は、法令上の言葉ではなく、実務上の一般的な言葉であることが分かります。

これに関連する税関からの説明文には、「自由化申告」という用語が定義されています(→ 「輸出入申告官署の自由化の実施等に伴う実務上の事項について」)。自由化申告の具体的な対象貨物や運用の方法などは、この説明文をご参照いただきたいと思います。

しかし、通関士試験は法律の内容を問うものなので、「自由化申告」という言葉を使って出題されることは殆どないと思います。

自由化申告が開始されたのは平成29年10月からですが、翌年以降の通関士試験問題を見ても、「いずれかの税関に申告・・・」という問題はあまり多くありません。

今、その受験を目指す皆さんは、関税法などの関係法令についての知識を整理し、自分の不得意分野の克服に力を入れるか、自分の得意分野に磨きをかけるか、受験勉強の佳境に入っていると思います。

でも、特に通関業者にお勤めの方は、あまり実務上の取扱いにとらわれすぎると、本番で問題文の理解を誤ることになりかねません。そうすると、いわゆる「ひっかけ問題」にはまることになります。

私としては、できるだけ関税法などの条文の理解に努めることが、やはり肝要だと思っています。

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通関士試験に関連した当ブログの記事は、以下をご参照ください。

関税法第4条(課税物件の確定の時)の理解について」(通関士試験の受験を目指す方の質問に答えて ①)

輸入の予備申告と通関士試験

通関士試験のために、関税法を攻めるコツを

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詳細は、こちらをご覧ください。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net )

(最終更新:2023年8月12日)

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