日本は、今、どこも新型コロナ禍で大変な時ですが、通関士試験(→ こちら)は、今年も秋に実施されると思います。
希望的観測かもしれませんが、今後、ワクチン供給が急加速するみたいではあるし、秋頃には、そのワクチンが必要な全ての人に行き渡り、感染爆発も医療崩壊も克服されているだろうと思うからです。
加えて、夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックに向けた様々な関係者の皆さんの発言や、日本人が伝統的に持つ、危機から日常を迅速に取り戻す高い能力・・・。
まあ、やはり、希望に近いかもしれません
ともあれ、秋の通関士試験の受験を志すなら、春は、まさにその勉強を始めるギリギリのタイミングでしょう。
関税法が基本中の基本ではあるが。
通関士試験の受験科目は、通関業法、関税法等の法令、通関実務の3科目ですが、それぞれにおいて6割程度の得点が必要とされています。
通関業法は短く、比較的単純な法律で、短期集中して勉強することで概ね攻略できます。よくそう言われるし、私にもその様に見えます。
通関実務は、関税法等の法令を勉強し、過去問のトライを重ねることで克服できそうな気がします。時間勝負の面があります。
でも、通関業法も実務も、やはり、根本は関税法と関税定率法、関税暫定措置法のいわゆる「関税3法」の十分な理解が不可欠です。
中でも、特に、関税法は、基本中の基本です。
しかし、関税法は単なる税法とは異なり、密輸などの監視取締業務も含まれ、国際条約や協定に直接関連する部分もあり、その理解には、ちょっとしたコツが必要だと感じます。
今回は、その関税法を理解する上でのコツを考えてみます。
通関とは、輸出入される貨物(モノ)が、税関を通過することである。
通関士は、通関のプロです。また、通関士試験は、その通関士となれるかどうか、通関のプロとして、相応しいレベルの知識があるかどうかを問うものです。
そして、「通関とは、輸出入される貨物(モノ)が、税関を通過すること」だということをまず認識してください。
一見、当たり前のようですが、実はとても重要な定義で、きちんと理解しておかないと、関税法全体の理解が歪んで行くことになります。
通関は、具体的(狭義)には、輸出又は輸入の申告から許可までの税関手続を指します。
そして、輸出とは、関税法上、内国貨物を外国へ向けて送り出すことで、輸入とは、外国貨物を国内に引き取ることと定義されています。では、「モノが税関を通過する」ことと、これらの「行為」はどう関係するのでしょうか。
税関を通過するのはモノであって、ヒトではありません。対象は貨物ですが、「輸出入しようとする者」が税関に申告して、税関の許可を得なければ輸出入はできません。
また、許可とは、閉じた門を開くことだと言えますが、輸入であれば、関税等の納付がなければ門は開かないと規定されています。でも、納税されたからと言ってすぐに輸入が許可されるとは限りません。
税関は、税と、関に分けてみる。
税関の役割は「税」と「関」に分けて理解すると分かりやすいです。
ここで言う「税」は、関税、消費税、その他の内国消費税などを指します。税は国庫(国の財布)に入りますが、徴収は厳格に運用され、一度入った税の還付は難しい仕組みになっています。
租税法律主義という言葉があります。つまり、関税法は、輸入貨物に関税を課す根拠なので、その視点での理解が必要です。
一方、「関」は、例えば、麻薬などの密輸入の取締り、武器の不正輸出の防止などです。
日本国民の安心・安全を守るだけでなく、国際社会の安全・安心にも寄与するものです。よって、怪しいもの(モノ)を止める役目は大変重要だと税関は認識して、厳格に運用しています。
罪刑法定主義という言葉があります。関税法は、輸出入貨物に関する取締り、罰則の根拠であり、その視点での理解が必要です。
一方で、関税法は、前述のとおり、関税等の納付を輸入許可の条件としているため、税の手続きと関の手続は関連しています。
つまり、税と関を切り分けて理解した後は、再び組み直して、知識を整理しなければなりません。
関税とは何かを理解しておく。
税関で徴収される関税は何のためか。
まず、所得税や法人税などの他の税と同様に、国家の財源として重要です。
だけど、税を支払う方には勿論、負担感があります。だからその手続きは、他の国税と同様に結構細かく定められています。
一方、関税は、輸入品の価格に税を上乗せし、国産品の価格に合わせて国内に流通させるという役目があります。
これは、物価を安定させる機能とは、また別で、国産品の競争力、成長力を維持する機能であり、日本の農林水産業の生き残りを手助けする機能と言えます。
だから、関税は、モノによって税率に差があるのです。課税や減免税の仕組みも少し複雑になっています。
そのため、「課税物件の確定」の理解がとても重要です。
ですが、高い関税のせいで食品や衣料品などの価格が下がらないのであれば、消費者にとって好ましいものではありません。輸入原料や海外から資材や部品を調達して国内で加工している生産者にとっても同様です。
また、国境を越えた物流の活発化が日本国民の生活の豊かさにもつながります。そのためには、他の国と強調した関税の引き下げという観点も重要です。
だから、関税は、時と共に税率が変動するのです。
税率を下げる仕組みと、下げた税率を上げる仕組みが同時に走っています。
つまり、輸出入されるモノに対する「適用法令」が、やはり重要になります。
通関は、制度と手続きに分けると理解しやすい。
通関は、「制度」と「手続き」に分けると理解しやすいでしょう。
「制度」とは、社会のルールです。関税法には、関税制度のほか、保税制度、納期限延長制度、不服申立制度などがあります。
「手続き」は、行為者のルールと言えます。申告手続、納税手続、承認申請手続などいろいろあります。
ちなみに、「税の制度」は、「申告納税方式」が基本です。輸入する人が、そのモノの値段や種類、税率、税額まで計算して、税関に提示する方法です。
この申告納税方式によって、税関の現物検査は、悉皆検査(基本的に全部を検査する方法)から、必要検査(必要なものだけを見る検査方法)が可能になりました。港での物流を止めないためです。
そうすると、当然そこには、通関業者や通関士の存在が不可欠ということになります。
「税の手続き」としては、申告の手順、項目、時期、申告先、必要書類などが、関税法に規定されています。
一方、「関の制度」は、輸出入申告制度が基本です。
輸入されるモノのうち、関税が有税のものはむしろ少ない訳です。消費税も全て課税とは限りません。
つまり、納税申告とは別に、輸入申告という制度を意識する必要があります。
輸出品に関税はありませんが、輸出に伴う関税や消費税の免税、戻し税、還付などの制度があるので、輸出申告が関の制度だけではないことを知っておく必要があります。
「関の手続き」は、持って入って良いものであることを証明する手続き、持って出て良いものであることを証明する手続きだと言えます。
税と関に関する制度の見直しがされると、手続きの見直しもなされます。
制度の見直しは、その時々の政策や社会情勢によるので、通関士試験の勉強においては、そうした観点から、最近の制度改正や手続き変更は必ずフォローしておいてください。
原則を左に置き、例外を右に置く。
関税法に限らず、法令・通達は、まず、一般原則を定め、次にその例外を定め、その次に例外の例外を定める、という場合があります。
原則と例外は、重ねて理解するのは難しいと思います。上下でも、左右でも良いので、並べて、順に覚えて行きましょう。ただし、例外の例外が原則に戻るとは限りませんので、ご用心を。
法令や通達は、実際に確認するのが良い、けれど。
関税法に限りませんが、一般原則を法律で定めて、例外を政令に委ね、細かな手続きは省令に記載する、ということが少なくありません。さらに細かい手続きと、法令の解釈を通達に落とすことも一般的です。
また、実際の通関士試験の問題は、法令等の条文に近い、固い文章で出題されるということも考えれば、通関士試験の勉強においては、法令と通達を確認することはとても大切です。
しかし、通関士試験を受験しようとする皆さんが社会人の場合は、そんな時間の余裕はないでしょう。
それに、こう言っては何ですが、関税法はまだしも、関税定率法や関税暫定措置法や特例法は、読んでも分からない(?)条文が沢山あります。
そうした場合に、財団法人日本関税協会や一般社団法人日本通関業連合会などが出版しているテキストが役に立つと思います。また、本屋さんで購入する通関士試験用の受験参考書の中でも、関税法等の内容を条文に沿ってきちんと解説している書籍が良いでしょう。
結局は、関税法等の条文になるべく近い形の解説から、原則と例外を組み合わせて理解するのが最も効率的で、効果的な勉強になるのではないかと思います。
原則は何か、その例外はどういうものか、「例外の例外」の結論は原則とどういう関係にあるかを念頭に攻めていくと、理解が進むのではないでしょうか。
過去問や添削問題だけで学習するのでは、そういう理解が難しいように思います。
ただし、めでたく合格して実務に就いたら、或いは実務に就く前に、必ず、関税関係法令とその通達の記述を確認してください。
実務においては、それが失敗しないコツになります。
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勿論、私も、通関士試験の受験を目的とした社内研修等について、ご相談に応じています。ご希望の方は、当方の業務内容やプロフィールに一度目を通されて、どうぞ、電話やメールでご照会ください。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net )
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通関士試験に関連する当ブログの記事は、以下をご参照ください。
「関税法第4条(課税物件の確定の時)の理解について」(通関士試験の受験を目指す方の質問に答えて ①)
(最終更新:2023年8月12日)
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