usa-Manhattan-Jo-Wiggijo-Pixabay

EPA原産地規則

日米貿易協定の米国側原産地規則におけるセット分類について

日本がこれまで締結してきたEPAの原産地規則(Rules of Origin)は、それぞれに特色があって、その全てに通暁することは大変なことですが、今、話題の「日米貿易協定(米国では、USJTA)」においても、日本側の原産地規則と米国側の原産地規則が別記されていることが一つの特徴かと思います。

このうち、米国側の原産地規則を見ていて気付いた点を、一点ピックアップしてみます。

world-trade-center-Gerd-Altmann-Pixabay
world trade center Gerd Altmann Pixabay

米国側の原産地規則は、同協定の附則Ⅱの譲許表(Tariff Schedule of the United States)に続く形で、paragraph 1から19までの個別規定と、品目別規則(PSR: Product – Specific Rule of Origin)から成り立っています。

うち、paragraph 8において、以下のとおり規定されています。

8.          The United States shall provide that for a set classified in the Tariff Schedule of the United States as a result of the application of rule 3 of the General Rules for the Interpretation of the Harmonized System, the set is originating only if each good in the set is originating and both the set and the goods meet the other applicable requirements of these Rules of Origin and Origin Procedures.

これを、私なりに日本語に訳すと、

第8項 米国は、「HS関税率表の解釈に関する通則」の通則3の適用の結果、米国の譲許表においてセット分類されるに当たり、セットを構成する各々の産品が原産品であること及び、当該セット並びに当該産品が他の原産地規則と原産地手続き上の要件を満たしている場合に限って、当該セットを原産品とすることを規定する。(仮訳:GTConsultant.net)

また、paragraph 9の規定は、以下のとおりです。

9.        Notwithstanding paragraph 8, for a set classified as a result of the application of rule 3 of the General Rules for the Interpretation of the Harmonized System, the set is originating if the value of all the non-originating goods in the set does not exceed 10 percent of the value of the set.

同様に、

第9項  第8項の規定に関わらず、「HS関税率表の解釈に関する通則」の通則3の適用によりセット分類されるに当たり、当該セットを構成する全ての非原産品の価格が当該セットの価格の10%を超えない場合は、原産品とする。(仮訳:GTConsultant.net)

beach-Table-Setting-Pexels-Pixabay-
beach Table Setting Pexels Pixabay

つまり、例えば、「室内芳香剤とドライフラワーのリースをセットにした品物」を米国に輸出しようとしたとします。最近の日本税関の「品目分類事前教示回答事例」を参考にすると、この品物が、「環状に束ねたい草にドライフラワーと葉を取りつけたリースと、スプレー付きプラスチック容器入りの芳香剤を小売用に包装したもの」であった場合は、通則3(b)の規定により、「ドライフラワー等で装飾したリース」であるとして、米国サイドでHS06039000に分類されると思われます。

そうすると、米国におけるHS06039000の品目のPSRは「CC」なので、本来、2桁(類)の変更があれば原産品として認められるはずですが、今回の輸出品の原材料のうち、仮に、当該芳香剤が中国製で、その価格が全体の10%を超えていたとすると、例え「CC」の条件を満たしていても原産品として認められないこととなります。

girl-grass-wreath-Pixabay
girl grass wreath Pixabay

同様の規定は、例えば「CPTPP(TPP11)」でも、繊維・繊維製品について同様の規定となっているものの、「その他の物品」では、通則3(a, b)が適用される物品については、「当該セットの税番に適用される品目別規則を満たす場合」となっており、日米貿易協定に比べればやや緩いように思います。

また、日EU・EPAにあっても、日米貿易協定とほぼ同様の規定ながら、「非原産品である構成要素の価格がセットの価格の15%以下」となっていて、こちらも数字の上でやや緩和されているようです。ただ、日本と欧州を比べれば、原材料の調達先としては日本の方が狭いようにも思えます。

なお、この米国側の原産地規則 paragraph 8, 9に該当する規定は、日本側の原産地規則には見当たりません。その意味はよく分かりませんが、まあ、今回の協定自体が、「早期の見直し前提」ですから、今後、双方の譲許表やPSRの変化に伴って変わっていくのかもしれません。

 cheers-by-Free-Photos-Pxabay
cheers-by-Free-Photos, Pxabay

lotte-world-tower-Cmmellow-Pixabay日韓関係に絡む輸出(外為法)規制をおさらいしておこう前のページ

中国向け貨物をAEO輸出者が輸出すると得をする次のページHong Kong Jann Weidemann, Pixabay

関連記事

  1. Hong Kong Jann Weidemann, Pixabay
  2. Summit-mountain-Fuji_kimura2 Pixabay 477832_1920

    AEO認定事業者

    税関の検査を回避する方策はあるか

    今年、5月19日から21日までの3日間、広島でG7サミットが開催されま…

  3. woman-Jill Wellington, Pixabay 3640935_1280

    AEO認定事業者

    輸出入の自由化申告と通関士試験

    本年の通関士試験は、10月2日(日)に、全国の会場で実施されます(…

  4. paper-mohamed hassan, Pixabay

    AEO認定事業者

    内部監査を企業の成長に活かしたいなら

    先日、公益財団法人日本関税協会が主催する「AEO内部監査人研修(通関…

  5. Yokohama mount-fuji-auntmasako Pixabay 1225931_1920

    AEO認定事業者

    税関事務管理人の仕事は難しいか

    今年も、関税法等の一部を改正する法律案(⇒ 令和5年度関税改正法案)が…

  6. ukraine-wal 172619 , Pixabay7083774_1920

    密輸取締り

    対ロシア向け奢侈品や貴金属などを輸出禁止に

    ロシアがウクライナへの侵略戦争を仕掛けてから約1か月を経て、沢山の罪…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


おすすめの記事

  1. finanzamt_architecture- Pixabay 1453306_1280
  2. mailbox-Stefan HoffmannPixabay 341744_1280
  3. holland-12019Pixabay 89589_1280
  4. workers-Shourav Sheikh Pixabay 5708691_1920
  5. rubber-duck-Alexa Pixabay 2821371_1280
  1. coronavirus- Miguel A. Padrinan,Pixabay 4932607_1920

    AEO認定事業者

    コロナ禍で偽造薬をつかまないための「6つのP」(INTERPOL)
  2. Afghanistan- David Mark, Pixabay

    AEO認定事業者

    現実支払価格には貨物代金以外に支払ったお金が含まれる、場合がある
  3. eastern-state-penitentiary- BoothKates, Pixabay

    AEO認定事業者

    輸出してはならない貨物を知らないと
  4. the-cat- Adina Voicu, Pixabay 3737295_1920

    輸入手続

    他法令の証明は、申告の時か、審査・検査の時か
  5. tasks1

    AEO認定事業者

    通関手続、AEO認定申請、EPA原産地証明(事業内容 1)
PAGE TOP