関税評価シリーズの4回目まで、以下の様に説明してきました。
第1回( 申告価格を誤る理由を考える):
- 関税評価とは、「税関への申告価格(Customs Value)を算出するルール」
- 算出方法(Valuation)には、「原則的な方法」と「原則によれない場合の方法」がある
第2回( 取引価格を理解することから始めよう):
- 原則的な方法とは、「現実支払価格」(取引価格)に基づく方法
- 「現実支払価格」に、運賃などの「加算要素」の金額を加算した価格となる
- 実質的に、「CIF(運賃保険料込み)価格」に相当する価格
第3回( 現実支払価格には貨物代金以外に支払ったお金が含まれる、場合がある):
- 「現実支払価格」に含まれる「別払い」、「弁済」、「相殺」とはどういうものか
- 「保管料」や「検査費用」はどういう場合に考慮するのか
第4回( 米国のコンテナ滞留による海上運賃の高騰は関税評価に影響するか ):
- 「運賃等」には輸出地での運賃や保管料、コンテナリース料などが含まれる
- 運賃については、特別な事情が考慮される余地がある
- 「仲介手数料(買付手数料)」は、その実態に基づいて判断する
第5回となる今回は、「加算要素」(→ 関税定率法第4条第1項)のうち、
まず、2号の残り「容器の費用、包装費用」について、私なりに解説します。
容器とは、商品と一体で申告されるものだけ
輸入貨物に限らず、普通、売られている商品は箱や缶や瓶、袋などの「容器」に入っています。初めから小売り用の箱や袋入りで製造される商品も沢山あります。
一方で、輸送のために箱詰めや袋詰めされるものもあり、そういう意味では、商品を積み付け(palletize)するパレットも、航空機用の ULD(Unit Load Device)も、海上コンテナも輸送用の「容器」の一つと言えそうです。
特に、形状が液体や粉物などの商品の場合や、小売り容器に入っている商品などを輸入する場合は、申告の際に商品と容器を一体として申告するのが普通ですね。
でも、こうした「容器」の価格がインボイス価格に含まれていない場合は、関税定率法第4条第1項第2号ハの規定で、課税価格の「加算要素」の一つとなります。
一方、例えば、海上輸送などのために繰り返し使用することを前提としている容器(いわゆる「通い容器」)の場合は、再輸出免税等の対象ともなり得るので、貨物とは別欄で申告する方が一般的です。
こうしたことを考慮して、その費用が加算要素となる「容器」とは、「関税率表の解釈に関する通則5」が適用されるもの、つまり「当該物品に含まれるケースその他これに類する容器及び包装容器」をいい、再輸入免税や再輸出免税等の規定で減免税されるものを除く、と整理されています(→ 関税定率法基本通達4-10)。
つまり、ここで言う「容器」は、輸入貨物に含まれ、輸入貨物と一体で申告される容器で、容器自体に容器以外の特性がないものを言います。
例えば、その容器自体に別の(商品としての)特性があるもの(飾り物となる陶磁器製品の容器に入ったビスケットなど)の場合は、勿論、その容器そのものを輸入貨物として品目分類を行い、申告価格を算出することとなるでしょう。
容器を無償提供したら3号の「無償支給品等」で考える
また、そうした容器をどの様に準備して、買手と売手のどちらがどの様に費用を負担するかは、個々の商品の購入の形態、製造方法や契約によって異なります。
普通は、輸入契約における商品代に容器の費用が含まれていると思います。でも、例えば、買手が日本で作らせた日本語表記の容器を無償で提供して、その分を値引きした契約価格になっているかもしれません。
或いは、小売り用に特別にデザインした容器を買手が用意して、製造工場に持ち込む契約になっているかもしれません。さらに、買手が他の商品のために用意して余った容器を融通することがあるかもしれません。
こうした時の考え方としては、まず、当該容器の費用が、その輸入取引において買手によって負担される場合には「加算要素」になるとの前提が必要です。
その上で、その容器が輸入貨物の一部として、輸入貨物の生産と取引きに関連して、買手によって、無償又は値引きをして、直接又は間接に提供された物品又は役務に該当する場合は、その費用は、関税定率法第4条第1項第2号ロの「容器の費用」ではなく、後に述べる、第3号の「無償支給等された物品の費用」に該当する、という整理になります。
課税価格に加算されるということは同じでも、後に述べるように「提供費用の加算」という点で、考え方は整理しておく必要があります。
包装の費用には人件費なども含む
包装に要する費用も、容器の費用と同様に、輸入取引に関連して買手が負担する場合は「加算要素」とされています。
例えば、特殊な電子機器を輸入するのに特殊な包装が必要で、そのための材料や資材、人員を買手が用意し、当該機器の完成に合わせて輸出地で特殊包装を施して輸入する、といった場合などが想定されます。
ちなみに、冷凍食品等を輸入するときに保冷輸送用にドライアイスを使用している場合は、従来、包装の費用として加算されることとなっています(→ 昭和63年OTO回答)。
法令上の取扱いも、「容器の費用」と同様に、その包装が輸入貨物の一部であって、その生産と取引に関連して、買手が無償又は値引きをして提供する場合は、後に述べる「無償支給等された物品の費用」に該当することとなります。
もう一つ、「包装に要する費用」には、包装材料の費用のみならず、包装作業に要した「人件費その他の費用」を含むとされています(→ 関税定率法基本通達4-11)。
このため、先ほどの例の様に、包装材料のみならず人員等をも買手が用意したものであれば、インボイス価格に、特殊包装に要した材料の金額のほか、作業員の手配に要した費用、作業員の旅費、滞在費、日当などの人件費、包装機材の費用などが含まれているかの注意が必要です。
税関事後調査では無償支給等による不適正事案が多い
次は、いわゆる3号の「無償支給品等」です。
関税定率法第4条第1項第3号(→ 条文 )を要約すると、
「輸入貨物の生産や取引に関して、買手が無償で又は値引きをして直接・間接に提供し物品や役務のうち次に掲げるものの費用」は加算要素になるとして、
イ 当該輸入貨物に組み込まれている材料、部分品又はこれらに類するもの
ロ 当該輸入貨物の生産のために使用された工具、鋳型又はこれらに類するもの
ハ 当該輸入貨物の生産の過程で消費された物品
ニ 技術、設計その他当該輸入貨物の生産に関する役務で、政令で定めるもの
を掲げています。
このうち、「ニ」で言う「政令で定める役務」は、「当該輸入貨物の生産のために必要とされた技術、設計、考案、工芸及び意匠であって本邦以外で開発されたもの」と規定されています。(→ 関税定率法施行令第1条の5第3項)
毎事務年度ごとに財務省が発表する税関の事後調査における非違事案(関税や消費税の追徴、加算税や重加算税の対象となった不適正な事案)でも、買手による材料や役務の無償支給等による非違が少なくないようです(→ 令和2事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査の結果 )。
ただ、日本の製造現場の海外移転が加速して、産業の空洞化の懸念が深まったのは、極端な円高が進んだ1990年代と言われています。その後も「消費地生産」などの観点から海外での設備投資は一層進みました。
ですから、長く海外でモノを作って輸入している会社は、例えば、海外で委託生産しているこの機械は金型を日本から送らないとうまくできないとか、A国で生産しているこの部品の設計は以前からB国のC社に委託しているといったことを社内で共有するのは難しくないように思います。
だから、「無償支給品等」に係る非違が多いのは、個々の社内経理のあり方の問題かもしれないし、組織の縦割りの弊害、部門間の連携不足かもしれませんが、勿体ないことだと思っています。
輸入貨物のコストを計算すれば見える費用
この「無償支給品等」に係る関税評価の考え方自体も難しくはありません。
3号のイからニに掲げられている物品や役務は、いずれも輸入貨物のコスト計算を正しく行っていれば分かる費用ではないでしょうか。
そして、買手がそうしたモノや行為を無償や値引きして提供していて、インボイス価格に反映されていない場合には、その旨を通関業者に伝えて評価申告を依頼してください。
前提としての考え方は難しくありませんが、注意すべき点を含めて順に見て行こうと思います。
まず、3号の「イ 材料、部分品等」については、特に外国で委託加工した繊維製品の輸入などの際には確認が必要です。生地や糸、ボタン、ファスナーなどの副資材を買手が無償で支給している事例が多くあります。
その他、機械類や電気製品等の場合でも、生産体制の多角化などに伴って、部品を第三国から供給する場合などが増加していますので、社内の情報共有をしっかり行うことが重要です。
無償供給等している部材について、商標ラベルや商品ラベル等も日本から送っていれば扱いは同じですが、食品衛生法に基づく原産国等の表示ラベルや、家庭用品品質表示法に基づく品質、洗濯ラベルなど、日本の法令に基づいて表示することが義務付けられている内容だけが表示されているラベルの場合は、これを買手が支給していたとしても費用を課税価格に算入する必要はありません。
有償支給だから加算不要とは限らない
では、材料や部分品を有償支給した場合はどうでしょうか。一般的に、有償支給であれば、売手の販売価格、つまりインボイス価格に当該材料等の価格は既に含まれていると考えます。だから、その価格を更に加算する必要ありません。
でも、材料や部分品の有償支給で注意しなければならない点があります。それは、「材料等の有償支給に要した費用」の加算です(→ 関税定率法施行令第1条の5第2項前段)。
例えば、買手B(日本側)が売手S(外国側)と衣類の製造委託契約を結び、その衣類の製造に使用する生地を日本から有償で供給(輸出)したとします。
有償ですから、外国側は支払った生地代を衣類の製造コストとして販売価格に反映させているはずですが、このとき、生地を日本から送った際の運賃や保管料、通関費用等の費用を、日本側が負担していることが多いのではないでしょうか。
多分、その時の建値はFOBかCIFでしょうから、少なくとも日本側の輸送費用の全部又は一部を買手側で負担しているケースが殆どでしょう。その場合の輸送費用は、輸入貨物の課税価格に加算される必要があります。
もう一つは、「有償支給した材料等の加工費用」です。直近に公表された事後調査事績でも、輸入貨物に組み込まれる部材を有償支給していたケースで、その部材の金型費用を輸出者への有償提供価格に含めていなかった事案が公表されています。
有償支給等でも、その提供価格が値引きや割引したことと同じ結果になっている場合は、その値引きした価格又は買手が負担した費用等は製品を輸入する際に課税価格に加算する必要があります。
ちなみに、先ほどの事後調査事績の輸入者の場合は、その他の申告漏れも含めて、合計約5,800万円の追徴課税となったようです。
今、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱を経験して、また、円安の動きが今後も続きそうな気配の中で、生産体制全体を見直す動きもあります。
しかし、外地生産する商品や機械部品を製造するために材料や部品を輸出している場合、或いはその設計やデザインを買手が外国で行っているとき、さらに輸入した機械部品等を用いて日本で加工した最終製品を輸出するときの輸出先での申告価格をどの様に算出するかなどは十分に検討することが重要です。
忘れてならないことは、諸外国は、輸入時の関税等の納税漏れに対して、日本税関より厳しく対処するところも少なくないということです。
今まで述べて来た関税評価のルールは、日本の多くの貿易相手国でも同じですから、輸出貨物についても、関税評価に係る十分な配慮が必要だと思います。
次回は、「加算要素」の3号「ロ 工具や鋳型などの無償提供等」から説明を続けたいと思います。
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