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貿易実務

米国のコンテナ滞留による海上運賃の高騰は関税評価に影響するか

今回の関税評価シリーズでは、

初めに、関税評価とは、「税関への申告価格(Customs Value)を算出するルール」であり、その算出方法(Valuation)は、「原則的な方法」と「原則によれない場合の方法」があることをお話しししました。(→ 申告価格を誤る理由を考える

次に、「原則的な方法」とは「現実支払価格」(取引価格)に「運賃などの費用の金額」(加算要素)を加算した価格であり、実質的にCIF(運賃保険料込み)価格に相当する価格であることを説明しました。(→ 取引価格を理解することから始めよう

そして前回は、この「現実支払価格」に含まれる「別払い」、「弁済」、「相殺」とはどういうものか、「保管料」や「検査費用」はどういう場合に考慮するのかを説明してきました。(→ 現実支払価格には貨物代金以外に支払ったお金が含まれる、場合がある

今回は、「原則的な方法」で課税価格を計算する場合の「加算要素」について論じてみます。

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輸入港に到着するまでの運送に要する運賃や保険料等の費用を足す

2回目のブログでご紹介したように「加算要素」は、関税定率法第4条第1項に限定列挙されており、次の5つに大別されます。

  1. 輸入港までの運送に要する運賃、保険料その他の費用
  2. 仲介料その他の手数料(買付手数料を除く。)、容器の費用、包装費用
  3. 買手により無償で又は値引きをして提供された材料・部分品等、工具・鋳型等、生産過程で消費された物品、技術・設計等(本邦以外で開発されたもの)
  4. 特許権、意匠権、商標権等の使用に伴う対価(ロイヤルティ、ライセンス料)
  5. 売手に帰属する収益(額が明らかな場合)

まず、「輸入港に到着するまでの運送に要する運賃や保険料等の費用」ですが、インボイス価格に含まれていない(EXW、FOB、FCAなどの)場合は、これを加算する必要があります。

その際、次のことに留意してください。

◎「輸入港」とは、船舶や航空機から輸入貨物の船卸し等がされた港を言います。要は運送契約による仕向港と考えて良いと思います。途中に日本の港に寄港してもその港ではありません。

◎「輸入港に到着する」とは、単に輸入港の港域に到着することではなく、輸入貨物の船卸し等ができる状態になることを言います。

◎「輸入港に到着するまでの運送に要する運賃」とは、輸入貨物を輸入港まで運送するために実際に要した運送費用をいい、その貨物の、輸出国における輸出港までの運送費用を含みます。

つまり、外国の港を出てからの輸送費ではなく、その前の輸送費も、インボイス価格に含まれていない場合は加算するということです。

◎ 運送契約に基づくときは、当該運送契約に基づき当該運送の対価として運送人等に最終的に支払われる費用をいい、「最低運賃(Minimum Freight)」や、「パーセル運賃(Parcel Freight)」が適用されるときは、当該運賃で構いません。

勿論、貨物保険を掛けた場合は、その運送区間に対応する保険料も加算要素になります。

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米国に滞留するコンテナによる運賃の高騰はどう評価するか

さて、では、今、米国Los Angeles港や、Long Beach港でのコンテナ船の滞留や米国内における空コンテナの滞留に伴う運賃の高騰が大きな問題になっていて、コンテナリース料が異常な高値になっているほか、滞船料なども発生しているかもしれません。

この海上・航空運賃の大幅な高騰の状況は、課税価格の計算において、どの様に評価すべきでしょうか。順を追って、考えていきましょう。

関連する通達(→ 関税定率法基本通達4-8)を要約すると、原則として、

輸入貨物を運送する船舶が約定された停泊期間を超えて停泊したときの割増料金は運賃に含まれる。

輸入貨物を運送する船舶が予定された日数を超える航海日数を要したことにより支払う割増料金は運賃に含まれる。」と規定されています。

ただ、一方で、

ただし、船舶の大きさ、港湾の状況等に応じて許容停泊期間と認められる期間を著しく超える場合や、船舶の性能、航路の状況等に応じて標準的な航海日数と認められる日数を著しく超える場合であって、その発生原因からみて当該支払金を課税価格に算入することが適当でないと認められるような特別の事情があるときは、この限りでない。」とも規定されています。

そうすると、今の海上運賃や航空運賃の高騰は極めて異常な状態であって、勿論、各荷主の責任で生じたものではなく、「特別の事情がある」ので、そのままの価格を課税価格の計算に用いるのは酷である、という判断の余地はありそうです。

この点は、関税定率法施行令の規定と併せて、後で検討してみたいと思います。

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運送途上の「一時保管費用」はどう考えるか。

では、米国内での滞貨によって予期せぬ「一時保管料」が生じた場合はどうでしょうか。

通達を要約すると次の様になります。

『当該運送に関連する費用』には、輸入貨物の輸入港までの運送に付随して発生する積卸しその他の役務の対価として支払われる費用を含み、かつ、次の費用を含む。

  • 輸出国における積込み前の一時的保管料(例えば、船積予定船の到着遅延により一時的に輸出港で保管される場合の保管費用)
  • 輸出の際に税関手続等に要した費用
  • 輸出国において要したコンテナー・サービス・チャージ

どうやら、輸出地での一時保管料は課税価格に含む方向で理解した方が良さそうです。米国から商品を輸入している皆さんは、例えば、商品代金以外に、米国での「一時保管料」を請求されて支払った場合、きちんと加算されているでしょうか。

コンテナのリース料はどの様に評価するか。

では、次に、このコンテナリース料の異常とも言える高騰についてはどうでしょう。

通達の規定は、要約すると、

輸入港に到着するまでの運送に要する運賃」は、運送契約に基づくときは、当該運送契約に基づき当該運送の対価として運送人等に最終的に支払われる費用をいい、次の費用を含む。」とされています。

  • 輸入貨物を運送するために要した積付資材費、船舶改装費等の費用
  • 為替相場の変動による補てん金
  • コンテナ賃借料(輸入港到着日(入港日を含む。)までの期間に対応する額が明らかな場合には、当該賃借料の額は、当該期間に対応する額によるものとし、輸入港到着日の翌日以降の期間に対応する額は含まない。)

ということで、空コンテナの調達にかかった費用は、輸出者が負担してインボイス価格に反映されようと、輸入者が負担して別に払うことになろうと、どれだけ異常な高騰であろうと、全部加算しなければならないということは分かりました。

特殊な事情で通常の運賃を著しく超える場合は通常の運賃等とする。

しかし、通達の規定でも、既に見てきたように、許容停泊期間を著しく超えた場合や標準的な公海日数を著しく超えた場合に、「特別の事情」が認められれば「標準的な運賃」の採用が認められるかもしれないと述べました。

この運賃等の運送費用の課税価格への算入について、関税評価制度の取扱いは、実は、思いのほか輸入者に優しい規定ぶりになっています。

関税定率法施行令第1条の5第1項には、大要、以下の様に規定されています。

輸入港までの運賃等は、輸入貨物の運送が特殊な事情の下において行われたことによって、その実際に要した当該輸入港までの運賃等の額が、通常必要とされる当該輸入港までの運賃等の額を著しく超えるものである場合には、当該通常必要とされる当該輸入港までの運賃等とする。

また、この判断について、関係通達(定率法基本通達4-8(8))では、要約すると次のように例示されています。

  • 運送契約の成立後に転載、戦争、港湾スト等で運送方法や経路が変更になり、当該契約による運送ができなかった場合は、当初契約どおりに運送されたとした場合の運賃
  • 運送契約による揚港や積港の変更、追加等に伴う割増料金の額が、一般的な(例えば、増加した距離で算定した)割増料金の額を著しく超える場合は、当該一般的な割増料金の額

ただ、こうした判断は、輸入者の相談や申告等に基づき、税関がすることになります。

現時点(2021/11/17)で、今回の米国の人手不足やコンテナの滞留に起因する運賃の高騰に対して、全国一律に、どの様に対処するという方針は示されていないようですが、貨物の内容や運送形態、運賃の推移、船会社やフォワーダーからの情報などをきちんと把握したうえで、個別の状況に応じて税関に相談することは、私は可能ではないかと思います。

買手が負担する仲介手数料(買付手数料を除く。)は加算する。

さて、加算要素の2番目は、「仲介料その他の手数料(買付手数料を除く。)」と、「容器の費用、包装費用」です。

まず、課税価格に算入すべき「仲介料その他の手数料」について、規定は、概ね以下のとおりとなっています。

(1)  売手及び買手のために輸入取引の成立のための仲介業務を行う者に対し買手が支払う手数料

(2)  輸入貨物の売手による販売に関し、当該売手に代わり業務を行う者に対し買手が支払う手数料

いずれも、「買手が支払う手数料」ですね。当然、売手が仲介者に支払う手数料はインボイス価格に含まれているという理解です。

この場合の「売手に代わり業務を行う者」の「売手に代わり」とは、売手の管理の下で、売手の計算と危険負担により業務を行うという意味になります。

また、その「業務」は、

  1. 契約の成立までの業務(例えば、買手を探し、買手から注文を取る業務)
  2. 商品の引渡しに関する業務(例えば、貨物を保管し、配送を手配する業務)
  3. その他(例えば、クレーム処理に関する交渉を行う業務) 

とされています。

ここまで見てお分かりのように、この「仲介料その他の手数料」の判断は、契約書等における名称によるものではありません。手数料を受領する人が、その輸入取引において果たしている役割とか提供している役務の性質を考慮して判断されます。

ここで、「買付手数料を除く。」とされていますが、やはり具体的な事例で迷うのは、輸入取引の際に代理人等に支払った手数料が、買付手数料に該当するか否かですね。

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買付手数料は、委託契約書などで明らかにしておく。

この点は、通達において、概ね以下のとおり整理されています。

イ 手数料を受領する者が「買付けに関し買手を代理して当該買付けに係る業務を行う者」であることが、買付委託契約書等の文書により明らかであること

この「買手を代理して当該買付けに係る業務を行う者」とは、買手の管理の下で、買手の計算と危険負担により、次のような業務を行う者をいいます。

  • 契約成立までの業務、
  • 商品引渡に関する業務、
  • 決済代行に関する業務、
  • その他(クレーム処理等)

ロ 手数料を受領する者が買付けに関し買手を代理して当該買付けに係る業務を実際に行っているという実態の存在が文書や記録その他の資料により確認できること

ハ 税関の要請がある場合には、売手と買手との間の売買契約書、輸入貨物の売手(製造者等)が買手にあて作成した仕入書等を提示することが可能であること

勿論、買付手数料の判断は、仲介手数料と同様に、契約書等における名称のみによるものではなく、手数料を受領する者が輸入取引において果たしている役割などを考慮する必要があります。

注意が必要なのは、買付業務を行っている代理人が、買付け業務に加えて、それ以外の仕事を担っており、その対価を含む手数料を買手が支払う場合です。この場合は、当該手数料の総額を買付手数料とすることはできません。

例えば、海外の輸入貨物の工場から輸出港等への輸送について、単に手配するのだけでなく、代理人が自ら貨物を輸送する場合などがこれに該当します。

ただし、当該手数料のうち、輸入貨物の買付けに係る業務の対価に相当する額を算出できて、買手がこれを証明した場合は、当該相当する額は買付手数料に該当するものとすることができます。

また、これらの手数料を受領する者が売手(輸出者)の系列会社や子会社である場合、つまり特殊関係があるときとか、又は売手と特殊関係にある者と特殊関係にある場合には、売手の計算と危険負担の下で活動している可能性が高いと見られることになるので、より詳細な証明などの対応が必要になるかもしれません。

さらに、手数料を受領する者が貨物のインボイス(仕入書)を作成しているというケースがあるかもしれません。その際に、輸入貨物代金と手数料が併記されている場合には、当該手数料を受領する者が当該輸入貨物の売手であると解される可能性があることにも注意が必要です。

次回は、「加算要素」のうち、「容器の費用、包装費用」と、3番目の「無償提供した材料等」について、私なりに解説してみたいと思います。

********************************

私は、関税評価に関する個別の問題や、基礎的な社内教育などについても、ご相談に応じています。

また、関税評価の知識が必要な場面として、税関の事後調査における対応に当たってもアドバイスが可能です。詳細は、こちらをご覧ください。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net

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[最終更新:2021年12月27日]

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