今年も、国家試験である通関士試験が、10月1日(日)、全国の会場で実施されます。(⇒ 第57回通関試験受験案内)
近年では、約6,000人を超える方が受験し、約1,000人程度の方が合格しています。そうすると、合格率は、概ね16%後半です。
今年の通関士試験は難しいか。
今年の通関士試験が第57回ですが、あまり過去を遡っても仕方ないので、直近10年ほどを振り返ってみると、合格率が最低だったのは、平成28年(第50回)の9.8%でした。一方、合格率が最高だったのは、翌平成29年(第51回)の21.3%でした。(⇒ 第56回通関試験の結果)
穿った見方をすれば、前年の合格率が低すぎたので、翌年度の試験で問題を易しくして合格率を上げようとしたようにも見えます。勿論、私の穿った見方です。
でも、そうすると、昨年(第56回)の合格率が19.1%とやや高かったので、今年は、やや合格率が下がるかもしれません。つまり、若干難しい問題が多くなるかもしれません。
受験者の皆さんにとっては、だから何だ、と言われそうですが、単純に、「今年は特に、勉強時間の長い方が有利」と、言うことですね。
私は、通関士試験を目指す方向けのセミナーの講師を担うことがあります。また、そのときに、受講者の質問に答える機会もあります。
どの様な質問があるのか、どの様に答えたかを少しご紹介して、このブログを訪れてくださった通関士試験を目指す方に、少しだけ、「勉強の方向性」とか、「勉強のやり方」の様なものをお伝えできればと思います。
通関士試験の受験を目指す方の質問に答えて ①
〔質問:保税展示場の期間満了を迎えた貨物の課税物件の確定の時期(関税法第4条)は、なぜ、その事由が生じた時なのか〕
関税法第4条(課税物件の確定の時期)に基づいて、一般的に、輸入される貨物に関税を課する場合の性質及び数量は、「輸入申告の時」に確定する、というのが原則と規定されています。(⇒ 関税法)
一方、保税展示場に入れられた外国貨物で、その許可期間が満了した後も当該保税展示場にあることによって、その関税を徴収されることとなったものについては、本条第1項第3号の3から、「当該関税を徴収すべき事由が生じた時(許可期間を満了した時)」に課税物件が確定する、と規定されているのは、なぜでしょうか。
本来の、「輸入貨物の課税物件の確定の時期は輸入申告の時」という原則に照らして考えると、「保税展示場に入れる承認申請の時」か、その「承認がされた時」の方が、妥当だと思われます。
〔回答:納税義務の成立と合わせて考えてみましょう〕
ご質問をありがとうございます。
「課税物件の確定の時期」をどのように考えるかという、関税法の基本に立ち返る良い質問だと思います。
関税法第4条第1項に、課税物件の確定の「原則」は「輸入申告の時」の現況による、と規定されています。
「輸入申告」は、特例申告貨物等の場合を除き、納税義務者(輸入者)が、納税する(輸入する)意思を示す行為だと考えます。
とすると、その納税の意思が示された時をとらえて、輸入貨物の課税物件(品目分類番号や課税価格、課税数量など)が決まる、とするのは、妥当な考えだと思います。
同様に、保税展示場における展示等を目的とする外国貨物について、その展示場に入れることが承認された時(日)は、納税する意思を示した時ではなく、単に、保税展示場に(外国貨物のまま展示等するために)入れる意思を示した時、だと捉えることができます。
一方、保税展示場の許可期間が満了した後も、場内に残されている貨物は、その持ち主などが、関税を納付する意思がある、と考えることもできます。
だから、そうした貨物の課税物件の確定の時期は、その事実が生じた時(日)とするのが妥当だと言える様に思います。
他の同様の規定も観てみましょう。
同第4条第3号の2の、「保税展示場又は総合保税地域に入れられた外国貨物のうち販売又は消費等を目的とするもの」は、もともと、保税展示場に入れる際に販売、消費される予定のものなので、その「承認の時」に納税の意志を確認できるから、その時に課税物件を確定しても良い、と考えられます。
また、同号の、「保税展示場において外国貨物に加工し、又はこれを原料として製造して得た製品」は、保税工場製品の原料課税の基本的な考え方(保税製品に係る日本での付加価値等には課税しない)から、保税展示場に入れることが承認された時(日)に課税物件が確定する、ということで、整合性はあるように思います。
とりあえず、保税展示場の許可期間満了貨物と、その前の、同様の規定について考察してみましたが、他の規定についても、同様にお考えいただければ、より理解が深まるのではないでしょうか。
〔回答の補足:関税法第4条と第5条は重要な条文〕
関税法第4条(課税物件の確定の時期)は、とても重要な条文です。
通関士試験の受験を目指す方は、細かいところまで、しっかり丁寧に理解しておくべきです。
この条文は、また、関税法第5条(適用法令)に直接関わっています。
そうしたことを理解するためには、ず、輸入貨物の輸入(納税)申告は、日本に到着して、船から陸揚げ(航空機から取卸し)されてすぐに行われるとは限らないということを念頭に置く必要があります。
例えば、ユーザーの要求に応じて供給するために保税蔵置場の中に暫く蔵置される商品があります。
また、保税工場に原料として投入されて、製品を外国に積み戻すつもりのものが、何かの都合で国内に引き取られる場合もあります。
或いは、陸揚げして中身を確認したら、商品が腐敗していて、輸入するまでもなく、外国貨物のまま廃棄されることとなる貨物もあるでしょう。
「課税物件の確定の時期」は、そうしたことを踏まえて、輸入貨物などが日本に陸揚げ(取り卸し)されて、輸入(申告)されるまでに、その形状や数量が変化する可能性があることを前提にしています。
「適用法令」は、そのことも考慮しつつ、陸揚げから輸入の許可までの、どの時点の関税率を適用するかを決めているものです。
関税率も、一様ではありません。時間の動きに合わせて下がる場合が多いですが、上がる場合もありますので、どの時点の法令(税率)を適用するかは、租税法律主義の観点から、重要な要素となります。
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通関士試験に関連した当ブログの記事は、以下をご参照ください。
① これまで、あまり出題されてこなかった「輸入予備申告」について ⇒ 「輸入の予備申告と通関士試験」
② AEO事業者が行う輸出入申告等に関連して出題されている「自由化申告」について ⇒ 「輸出入の自由化申告と通関士試験」
③ 通関士試験では必須の「関税法」を勉強する際のコツの様なものを ⇒ 「通関士試験のために、関税法を攻めるコツを」
また、私は、通関士試験の受験を目指す方向けのセミナーなどの経験があります。勿論、輸出入通関手続の全般に関して、実務上の問題点の洗い出しや課題の解決に向けたアドバイスも可能です。詳細は、こちらをご覧ください。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net )
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