外国から商品や原資材などを輸入するとき、例えば、米ドル建てでインボイスが仕切られている場合は、その価格を日本円に換算して税関に輸入申告しなければなりません。このときの、通関のための換算率を、「通関用外国為替相場」とか、「公示レート」とか、単に「換算レート」と言います。今回は、この「換算レート」について解説します。
換算レートは、1週間単位で公示される
輸入通関の際に使用する換算レートは、1週間単位で税関長が公示することとなっています。税関長は、沖縄地区税関を含めて全国に9人いますが、勿論、日本全国で一律です。
この換算レートは、関税定率法第4条の7(→ こちら)を受けた同施行規則第1条(→ こちら)において、
「輸入申告の日の属する週の前々週における実勢外国為替相場の当該週間の平均値に基づき税関長が公示する相場とする。」
と定められています。
実際には、税関ホームページの「外国為替相場(課税価格の換算)」(→ こちら)を開いてみると、2008年から今週まで、毎週の換算レートを見ることができます。
ちなみに、今週(2022年11月27日から12月3日まで)の換算レートは、次のとおりです。
(税関ホームページ⇒「外国為替相場」⇒「11月27日~12月3日から抜粋、転載)
この表には、米ドルだけでなく、ユーロや韓国ウオン、中国人民元、台湾ドルの換算レートも同時に公示されていることがお分かりになると思いますが、その他のアジアやヨーロッパ等の多数の国の換算レートも同時に公示されています。
換算レートによって関税額は増減する
そして、この換算レートが大きく変化する場合は、当然、課税価格が大きく変化することとなります。
例えば、先週(2022年11月20日から11月26日まで)の換算レートを見ると、次のとおりで、米ドルから日本円への換算レートは、1米ドル当たり¥145.60でした。
(税関ホームページ⇒「外国為替相場」⇒「11月20日~11月26日」から抜粋、転載)
今週の換算レートとの差額は、1米ドル当たり5円77銭となります。
そうすると、仮に、インボイス価格がCIF10万米ドルの商品を輸入申告した場合、課税価格が577,000円安くなるということです。
つまり、仮に関税率が8%だった場合、先週の輸入申告をやめて、今週申告すると、関税は、約46,000円安くなり、地方消費税を含めた消費税は約62,000円安くなって、合計で約108,000円得することになります。
昨今、インボイス価格が100万ドルを超える輸入貨物も珍しくないですが、その場合は関税だけで62万円も得することになります。
輸入貨物の消費税は輸入後の国内販売等に伴って仕入控除できるので、増えても減ってもそれほど影響はないでしょうが、輸入者が最終消費者である場合や仕入控除できない場合は、直に影響を被ることになります。
どうして前々週の平均値を用いるのか
ではどうして、通関の際の換算レートは、「前々週における実勢外国為替相場の当該週間の平均値に基づく」とされているのでしょうか。
まあ、少し考えてみれば簡単な話で、申告の日に最も近い時間軸で、実際の相場の平均値を算出して、これを通関の際の換算レートにしたいという基本的な考えがあったとします。
でも、直近の為替相場を毎日調べて公示するのは、これを算出する方も使う方も甚だ面倒です。せいぜい、週間平均値を算出して使う程度であれば、実勢レートとそれ程乖離する心配はなく、使い勝手も問題ないでしょう。
その際、最短で「実勢外国為替相場の週間平均値」を算出しようとすれば、例えば、先週(11月20日から26日まで)の相場の平均値を算出するのは、最も早くて今週の週明けの月曜(11月28)になります。
で、その換算レートを公示するためのいろいろな手続きや手配をしなければならないので、公示できるのは、その翌日の火曜日(11/29)以降としておくのが無難です。そうすると、週間レートですから、その公示した換算レートを使える週は、来週(12月4日から10日まで)となります。
いつ公示されるか、公示されたら何をするか。
一般的には、毎週の換算レートは、前週の火曜日頃、たぶん午前中の早い時間に、税関ホームページなどで公示されると思います。
ちなみに、NACCS(通関システム)掲示板(→ こちら)では、原則、公示日(通常は火曜日)の午前10時から照会可能としつつ、祝休日、その他の影響により、公示日の曜日が変動する場合や照会可能時間が17時からとなる場合がある、としています。
では、換算レートが公示されたときに、何かするべきことがあるでしょうか。
例えば、先日、当ブログでも紹介した予備申告(→ 「輸入の予備申告と通関士試験」)は、輸入申告予定日における為替レートが公示された日か、貨物の船荷証券(航空貨物の場合はAir Waybill)が発行された日のいずれか遅い日以降でなければできないとしているので、予備申告の起点とはなりそうです。
また、今週の様に換算レートが急激に動くときは、輸入申告を早めるとか、遅くするなどの節税対策もできるでしょう。
ただし、その時の輸入商品の事情によって、配送が遅れると問題が生じるとか、鮮度が落ちるとか、そもそも顧客に説明しにくいとか、保管料が増加するとか、デマレッジやディテンション・チャージが心配だとか、無理に申告を早めると他法令でミスが生じやすいとか、いろんなことを考える必要があります。
輸出申告の換算レートも同じ
この税関長が公示する換算レートは、輸出貨物の申告の際も使用されます。
つまり、例えば、米ドル建てで輸出契約し、インボイス価格が米ドルの場合、今週の申告なら1米ドル当たり¥139.83で計算した邦貨で申告書を作成することとなります。根拠は、関税法施行令第9条の2第3項(→ こちら)において、大要
「輸出申告書に記載する価格(FOB価格)を計算する場合の、外国通貨により表示された価格の本邦通貨への換算は、輸入貨物につき課税価格を計算する場合の例による。」
と規定されています。
輸出貨物には関税がかからないので、税金の問題はありません。
しかし、1品目の価格が20万円以下になれば貿易統計除外貨物になるので、符号(細分)が少額(S)になるとか、少額合算できるようになるなどの影響があります。
外為法規制貨物の換算レートはこれではない。
特に、輸出貨物の場合に気を付けなければならないのは、輸出貿易管理令における「少額特例」の適否を判断する場合の換算レートです。
この場合の換算レートは、上で説明した「税関長が毎週公示するレート」ではありません。
外為法第7条に基づいて財務大臣が日本銀行で毎月公示する「基準外国為替相場及び裁定外国為替相場」(→ こちら)によることとされているので、間違えないようにしてください。
例えば、輸出貿易管理令別表第1に掲げられる武器や大量破壊兵器の製造等に用いられる機器、資材等の輸出は経済産業大臣の許可がなければ輸出できませんが、同令第4条に基づいて、同別表1の一部の品目に該当する貨物については、1回の輸出金額が100万円以下の場合は許可を不要としています。
詳細の説明は省略しますが、そうした場合の換算レートは、この「毎月日銀で公示される換算率」によることとなります。
つまり、2022年12月中に輸出(船積み)するのであれば、1米ドル¥147で計算した邦貨で判断する必要があります。
輸入貿易管理令上の規制貨物についても同様です。
参考:貿易取引通貨別比率
以上のとおり、輸入申告価格の計算等に使用する換算レートは、毎週、税関長が税関ホームページ等で公示するレートによるわけですが、では、日本に輸入される貨物のうち、米ドル建ての貨物はどのくらいあるでしょうか。
これも、税関ホームページの貿易統計ポータルサイト(→ こちら)から、「貿易取引通貨別比率」で、その概要を確認することができます。
ちなみに、2022年上半期の貿易取引通貨別比率(→ こちら)によれば、例えば、日本から世界への輸出でみると米ドル建ては50.8%、日本円建ては36.0%でした。いまだに、輸出は円建てが殆どという印象を抱く方も多いようですが、必ずしもそうとは言えないようです。
まして、アメリカ合衆国への輸出では、米ドル建てが84.9%、日本円建てが14.8%となっています。アジア向けの輸出を見ると、米ドル建ては48.6%、日本円建ては43.6%と、拮抗しています。
一方、輸入はドル建てという印象も一般的かもしれませんが、こちらは、対世界で、米ドル建ては71.2%、円建ては22.7%でした。
しかし、欧州からの輸入で見ると、円建てが60.9%で最も多く、次いでユーロ建てが24.8%、米ドル建ては12.6%でした。
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今回のブログは、もっと早く、先週の早い段階でアップする方が良かったかもしれません。
でも、私としては、読者に誤った判断を誘発する可能性があると思いましたので、今週にしました。
今後、為替レートが大きく増減する場合に備えて、基本的な知識としていただければ幸いです。
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