2021年8月初旬、名古屋通関業会主催「通関事務基礎科研修」(主に、通関業者各店社の新入社員向け)のプログラムの一つとして、「通関業者のための貿易実務の基礎」と題する研修の講師を務めました。
これまでは、貿易実務に詳しい専門家が講師を務めておられたのですが、今回、私がこの研修を担当するに当たって、通関業者の従業者として働く皆さんに最低限知っておいて欲しい「通関実務や貿易実務に関わる上で必須の言葉」の定義などを中心に解説しようと考えました。本日は、そのポイントを少しだけご紹介します。
通関書類から貿易実務の基礎を知る
通関業者の目的が、適正で迅速な通関処理の実現にあるとすれば、輸出入貨物と通関関係書類についての正しい知識と、内容の的確な理解が重要です。
特に、通関業務は、輸出入(蔵入れ、積戻し等)申告・申請しようとする貨物の種類、性状、用途、価格、原産地等を正しく知ることから始まります。
そして、この貨物の種類や性状等は、原則として、インボイスやパッキングリスト、B/L、保険証券等の通関関係書類から知ることとなります。
そのため、輸出入取引や輸出入に関する実務(貿易実務)に関する知識があることで、通関関係書類から貨物に関する情報を正しく把握し、申告事項と整合する内容を見極め、不足する情報を判断することは容易になります。
また、貿易実務の知識があれば、申告時に不足する情報の迅速な補完、申告書等の的確な作成、不測の事態が生じた際の迅速・的確な対応が可能です。
従って、通関業者には、貿易実務としての売買契約、取引条件、運送、貿易決済、貨物保険など広汎に亘る知識が求められます。
今回の研修の目的は、その基礎知識の涵養を図ることとして、内容を検討しました。
売手と買手、その他を比べる
その最初の知識として、是非、覚えてほしいのが次の「人たち」です。
まず、荷送人(Shipper)と荷受人(Consignee)。これらは、貨物の発送人と受取人のことで、B/L上の送り主と送り先です。
荷送人が運送人(船会社、航空会社など)と契約を結び、貨物の発送をします。(参考:関税法第15条、第15条の2)
次は、仕出人(Sender)と仕向人(Receiver)です。こちらは、実際に貨物を送る者と受け取る者です。
輸出申告において、エンドユーザーや貨物の実際の納入先が判明していれば、その者が仕向人です。単なる配送先や倉庫は仕向人ではありません。(参考:関税法施行令第58条、第59条)
三つ目は、輸出者(Exporter)と輸入者(Importer)です。
貨物を輸出(内国貨物を外国に向けて送り出すことをいう。)しようとする者と、貨物を輸入(外国から本邦に到着した貨物等を本邦に引き取ることをいう。)しようとする者、ということになります。(参考:関税法第7条の2、第67条の3)
最後は、売手(Seller)と買手(Buyer)です。「実質的に自己の計算と危険負担の下に輸入取引をする者」(関税定率法基本通達4-1)と定義されています。
つまり、売買契約における、売る側と買う側の当事者、権利関係(民法等)上の売主と買主ということです。(参考:関税定率法第4条)
通関業者であれば、それぞれの違いを知って、適切な場面で、適切な言葉を使い分ける必要があります。
原産地、積地・揚地、仕出地とは
次は、原産地など「場所」の話題。
原産地(Country of Origin)とは、そのモノが捕獲、収穫、生産、製造、実質的に加工された国(又は地域)を言いますが、原産地だけでも、次の3種類で使い分けが必要です。
一つ目は、一般特恵関税制度(GSP)上の原産地です。一般特恵関税率を適用する事ができる原産品の要件が細かく決められています。
輸入申告の際に、第三者発給による原産地証明書 From A を提出することが必要です。(参考:関税暫定措置法施行規則第8条、第9条、別表、)
二つ目は、経済連携協定(EPA)上の原産地です。文字どおりEPA特恵関税率を適用する要件ですが、こちらは、「日EU・EPA」や「日ASEAN・EPA」など、各EPA協定の原産地規則により、認定基準や証明方法等が異なります。
三つ目は、非特恵原産地です。こちらは、WTO協定税率の適用、貿易統計、原産地表示、関税交渉等に利用されます。
この場合の「原産地規則」の考え方は「一般特恵関税制度」とほぼ同じですが、原則として、輸入時の原産地証明書等による証明は不要です。(参考:関税法施行令第4条の2。)
また、原産地の他に、積地(Shipping Country, Shipping port)と、揚地(Landing Port)も定義を知っておく必要があります。
いわゆる、売買契約単位を数量(重量、個数)とする場合に、陸揚げ港で荷揚げした際の数量をもって契約(決済)数量とする契約条件を揚地数量条件(揚地ファイナル条件)と、積込数量を契約(決済)条件とする場合を積地数量条件(積地ファイナル条件)と言います。
同様に、陸揚げ時の品質を売手が保証することを揚地品質条件(Landed Quality Terms)、積出し時点の品質を最終条件とすることを積地品質条件(Shipped Quality Terms )と言います。
さらに、仕出地(積出地、Port of Shipment)と仕向地(Destination)も、確認しておきます。
貨物の最初の船積地が仕出地、貨物の運送契約における最終目的地が仕向地、ということになります。(参考:関税法施行令第13条、第58条、第59条)
支払い条件は様々
支払い条件は、L/C(Letter of Credit 荷為替信用状)をまず理解しておく必要があります。
しかし、L/C決済は、輸出入者双方にとって、安心、確実な決済が望める一方、銀行手数料が高く、書類の動きも遅いため、主に、高額な貿易取引や輸入者の信用に問題がある場合に利用される傾向にあります。
よって、通関業者としては、最低、次の二つの決済手段を知っておく必要があります。
まず、電信送金(T/T: Telegraphic Transfer )。これは、銀行振込(Remittance)とほぼ同義で、前払い(Advance Payment)が一般的です。
L/Cに比して手数料が安いので広く利用されますが、特に輸入者にとって前払いはリスクが高いので、相手の信用状態によっては、分割送金も活用されます。
そして、支払渡し(D/P: Document against Payment)と引受渡し(D/A: Document against Acceptance)です。
輸出者が輸出地の銀行経由で船積書類を送付し、輸入者による輸入地銀行への支払い(Payment)又は支払確約(Acceptance)によって代金を受領する方法です。
特に、D/Aは代金回収リスクが高いので、Standby L/C(L/Cの一種ですが、輸入者の契約不履行の場合にのみ発行銀行が支払いを行う。)や輸出手形保険と併用される場合が多いようです。
最初の30分でここまでお話しました。全部、基本的なことばかりですが、押さえて置く必要があります。
その後は、インコタームス2020を詳述した後、2010と2000にも言及して前半を終了。
後半は、商品の品質や重量・数量、荷印(記号・番号)やB/L、コンテナ、海上保険等について説明しました。
これらについては、いずれ当サイトで、少しずつご紹介できればいいかな、と思っています。
(2022年9月30日、最終更新)
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