財務省では、毎年、次年度における関税政策や関連する制度の見直しのために、同省に設置されている「関税・外国為替等審議会関税分科会」を開催し、議論を行っています。
その内容は、資料と議事録の形で、財務省のホームページから見ることができますが、本年10月5日に開催された分科会では、保税制度の在り方に関する検討状況が報告されています。
(⇒資料1「最近の関税政策と税関⾏政を巡る状況」)
11月6日に公開されたこの分科会の議事録(⇒ 「関税・外国為替等審議会関税分科会(令和5年10月5日開催)議事録」)で、この保税制度に関して、財務省関税局からは、以下のように発言がされています。
「煩雑な手続の解消をはじめ、保税制度に対するニーズや課題の声が寄せられております。こうした状況に対応するため、保税制度のあり方について検討を行うこととしております。」
「多様なニーズに対応し、貿易円滑化を図るための保税制度の在り方について、①利用者の視点から見た煩雑な手続の解消、②効果的な検査・取締りの実施、③保税制度の潜在的なニーズの発掘の3つの柱に基づき検討することとしております。」
さて、本稿では、私見に基づいて、この保税制度に係る「煩雑な手続」について、比較的簡単な見直し策を、一つ述べてみたいと思います。
外国貨物の運送は、原則として税関長の承認手続と発着確認等の手続が必要
外国貨物を国内で運送するには、事前に税関窓口で保税運送の承認を取得します。(⇒ 関税法第63条)
その際、基本的には、その都度、税関に申請する必要があります。
また、その承認期間は、「いつからいつまで」と、概ね1週間程度の期間に限定されていて、その間に発送し、目的地に到着する必要があります。
運送ができる区間も、開港、税関空港、保税地域等の相互間と決まっています。
さらに、承認を受けた後も、運送の際には別の手続が必要です。
例えば、A保税蔵置場からB保税蔵置場に運送しようという場合は、その承認書(目録)に、A保税蔵置場の担当者がサイン(発送確認)し、発送地を管轄する税関の確認印(認発送)をもらってから発送し、到着したらB保税蔵置場の担当者がサイン(到着確認)して、その状況(過不足の有無など)を記載し、到着地の管轄税関に持参して確認印(認到着)をもらい、これをA保税蔵置場に送り返して、A保税蔵置場が発送地税関に提出する必要があります。
まあ、これらの制限や手続は、保税運送の対象が外国貨物であるので、仕方がない一面があります。
つまり、輸入貨物(税関の輸入許可前の貨物)の場合、保税運送の対象物は、税関が審査や検査をする前なので、例えば、麻薬や覚せい剤等の密輸品が紛れている可能性があります。
また、輸出貨物(税関の輸出許可済みの貨物)であれば、税関の審査や検査を受けて問題ないとされたものなので、例えば、運送の途中で爆弾を仕掛けられて船や飛行機に積まれてしまう危険性が生じます。
このため、外国貨物が国内で運送される場合は、その貨物の内容やどこからどこへ行くか、期間はどのくらいか等を勘案して、承認して良いか等を税関が判断できるようにしておく必要がある、と言うのが建前です。
それと、保税運送の承認をした後の貨物についても、ちゃんと運送されたかどうか確認する必要がありますし、かつ、その状況を把握しておけば、何かのときに、例えば違法薬物が入っているなどの情報が入ったときに、直ぐに対処できることにもなります。
保税運送の手続を要しない場合がある
一方、外国貨物の運送について、税関の承認を不要としている場合もあります。
① 外国貿易船等に積まれた状態で国内輸送する場合
例えば、外国から神戸港に到着した本船に積まれていた貨物が、次港の横浜港揚げであった場合、外形的には外国貨物を神戸から横浜まで船で国内運送することになりますが、保税運送の承認は要りません。(⇒ 関税法施行令第52条)
輸出貨物の場合も、例えば、米国向けに神戸港で積み込んだ貨物を次港の横浜港まで運ぶ行為については、やはり保税運送の承認は必要ありません。
航空貨物も同様の取扱いですが、これらは、元々外国から来た(外国に行く)船や飛行機で、そのまま国内の別の港に立ち寄るか、そこで積み替えるだけなので、常識的に考えても問題ない制度だと思います。
② 同一開港内の運送も保税運送の手続を要しない
この「保税運送手続を要しない貨物」の取扱いは、関税法基本通達において、次のように運用の幅を広げています。(⇒ 関税法基本通達63-3)
- イ 外国貨物の移動が同一開港又は同一税関空港の中で行われる場合
- ロ 外国貨物の移動が同一保税地域(一括許可を受けた保税地域を含む。)の別棟等までの間で行われる場合
- ハ 外国貨物の移動が、被許可者等が同一であり、かつ、同一又は隣接(公道を隔てている場合を含む。)した敷地内に存在する別許可に係る保税地域との間で行われる場合
このうち、ロ(一つの保税地域の中で運送される場合)と、ハ(実質的に、一つの保税地域の中で運送される場合)は、まあ、「当たり前だよね。」という感じがします。
では、イ(同一開港等の中で運送される場合)は、どういう意味でしょう。
「開港」とは、外国貿易のために開かれた港をいいます。
鎖国をしていた江戸時代末期に、条約によって開港された函館や新潟、兵庫等の5港と同じですね。勿論、現在の日本全国の開港の数はもっと多く、およそ120港となります(⇒ 関税法施行令別表1)
中には、京浜港や阪神港など、大きな港もありますが、小さな港は、1年ごとに見直しがされていて、一定の貿易実績や入港実績がなければ、「不開港」に格落ちとなります。不開港になると、外国貿易船等が入港するには、その都度、税関長の許可を得なければならないこととなります。
空港も、同様に、貿易のために開かれた空港を「税関空港」といい、それ以外の空港は「不開港」です。
開港等の話は、今回、本論ではないので、別の機会に開設しますが、とにかく、「同一開港(税関空港)内」では、保税運送の承認はいりません。
開港とは「海面」をいう
では、この保税運送の承認が要らない「開港」と「税関空港」は、どこからどこまでをいうのでしょうか。
関税法に、次のように規定されています。(⇒ 関税法第96条)
開港の港域は、・・・港則法に基づく港の区域により、税関空港の港域は、政令で定めるところによる。
では、港則法では、「港」は、どの様に定義されているでしょうか。
港の範囲は、港則法施行令で、港ごとに範囲が決められていますが、その別表では、「・・・の円内の海面」とか、「・・・により囲まれた海面並びに・・・川水面」と定義されています。(⇒ 港則法施行令別表第1)
つまり、港則法上の「港」、すなわち関税法上の「開港」は、海面(水面)なのです。
ということは、保税運送手続が不要とされている「開港」の範囲は、海の上だけ、ということになります。
外国貨物は、一旦陸揚げされてしまうと、例え、100メートル離れた別の倉庫にフォークリフトで持って行くだけであっても、陸上輸送なので、前述のように、承認申請をして、税関の審査と承認を得て、指定された期間内に、発送手続と到着手続、返送手続をしなければならないことになっているのです。
税関空港とは、滑走路や駐機場をいう
次に、税関空港(開港)はどの様に定められているのでしょうか。
税関空港は、関税法施行令別表2において、新千歳(北海道)から新石垣(沖縄県)まで、約30の空港がリストアップされています。
そして、その空港のうち、保税運送手続が不要とされる「税関空港の港域」は、同施行令によって、
税関空港の港域は、別表第2に掲げる各空港につき、当該空港内における着陸帯、誘導路、エプロン及び格納庫の占める地域とする
と定められています。(⇒ 関税法施行令第86条)
例えば、成田空港とか関西空港、中部空港など大規模空港には、航空機が発着する場所以外にも、免税売店等があるターミナルビルや、航空上屋(保税地域)、機内食工場(保税工場)などがあり、近接して航空貨物を取り扱う保税蔵置場などが沢山ありますが、外国貨物は、一旦航空機から取り卸されれば、どんなに近くとも、税関窓口で保税運送の申請をして承認を得なければ運べないこととなります。
同一開港(税関空港)に隣接する地域での保税運送を不要にできないか
海上貨物も航空貨物も、実際には、NACCSのシステムを利用すれば、保税運送承認申請の手続の手間はそれ程かからないと思います。
でも、そういう問題ではなく、そもそも承認を受けなければならいと言う点が緩和されれば、関係する皆さんの負担は随分軽くなるのではないでしょうか。
だったら、どうでしょう、同一開港内(海面の運送だけ)に限定せず、せめて「同一ふ頭内」とか「同一港頭地区内」、或いは「空港敷地内」などの陸地でも、保税運送の手続を不要にすることはできないでしょうか。
そうすれば、日本の開港や税関空港はもっと使いやすくなり、港内の物流はよりスムースになるのではないでしょうか。
「同一ふ頭内」とは、例えば、京浜港であれば、「大井ふ頭」とか「本牧ふ頭」、阪神港であれば「南港」とか「六甲アイランド」を、名古屋港なら「飛島埠頭」や「金城ふ頭」を想定しています。
また、「港頭地区」という言葉は、最近、公式な文書等には使われなくなったように思いますが、横浜市の港湾用語業務用語集には、
港頭地区:ふ頭内及びその周辺地区をいう。
とされています。(⇒ 横浜市港湾用語集「こ」のページ)
外国貨物の陸上輸送は近距離でもリスクがあるというのであれば、税関の取締りが容易になるよう、個別に適当と求める範囲を税関長が指定するという方法もあるでしょう。
また、異動距離に関係なくて、外国貨物の動きをトレースする必要があるというのであれば、NACCS(通関システム)を導入した保税地域間に、運送区間を限定しても良いでしょう。
システム参加保税地域等で、搬出と搬入の登録処理がされていれば、システムを介して外国貨物の状況は常に把握できます。
とにかく、港で外国貨物を扱う港湾事業者や倉庫業者、通関業者の業務負担を少しでも軽減することは、「創貨」につながるように思います。
もっと言えば、こうした港で働く沢山の人々の「税関の運送承認をとらなければ動かせない」という心理的負担を少し和らげるだけでも、日本の国際貨物港のパフォーマンス向上につながるのではないかと思います。
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