通関のプロフェッショナルといえば、通関業者ですが、本当のプロは、その通関業者において通関書類の作成や審査を担っている通関士です。
一般に、通関業者(会社組織)の中で、営業担当者は、通関手続そのものには精通していなくても構わないとされています。勿論、基本レベルの知識は必要ですが、通関士試験に合格するレベルまでは必要としないでしょう。
通関業者(会社)としては、フォワーディングや港湾業務を併せて生業としている会社も多く、要は、顧客から通関手続を含む港湾手続、輸出入貨物の運送、保管、荷役、取扱いなどをトータルで請け負うことが重要ですから、その依頼を1件でも多く引き受けてくるのが、営業担当としては肝要なのだと思います。
その通関業務のプロフェッショナルである通関士でも、日常の業務の中では、品目分類や他法令の適用などで迷うこと、判断が難しいこと、自己の判断に自信が持てない事案が数多く発生します。
そういうときは、税関の担当者に電話や対面で相談するのが最も確実で、迅速な処理につながります。
でも、通関のプロであるからこそ、そうした場合の電話等での相談では、ちょっと気を付ける必要があるように思います。
今回は、前回の「お役所に電話やメールで問い合わせるときに」(→ こちら)の応用編として、通関士が税関に電話で何かを尋ねるときの心構えの様なものを考えてみたいと思います。
まず、どこへ電話するか。
輸入貨物であれば、その外国貨物が通関場所(保税蔵置場など)に入っているか、又は港に着きそうな状態であれば、担当の通関部門に電話を掛けます。
その方が、話は早いし、処理方針が立っていればその後の通関処理も早い。通関部門で判断できないことは、事前に総括部門や関税鑑査官などに照会して結論を出してくれるでしょう。
輸出貨物でも、輸出申告することが確実な貨物については、同様に通関部門に照会します。
一方、まだ、予定が不明確な場合、どこの官署に申告することになるか分からない場合は、前回のブログに書いたように、総括部門や関税鑑査官、評価部門、原産地調査官など、専担の部門に照会した方が回答は早いでしょう。(例:東京税関の照会窓口→ こちら)
何を聞くか。
税関に電話で照会することは、基本的に、自分で法令や通達などを調べてみて、それでも分からないこと、理解が難しいこと、或いは、結論に自信がないなど、念のために確認しておくべき事項などでしょう。
単に、「どうしましょう。」と尋ねるのは、プロフェッショナルとして恥ずかしいし、会社の評価を落とすかもしれません。
それに、相手の回答をその場で理解できないかもしれず、良いことは何もありません。
では、どの様に聞くか。
聞き方は、勿論、少なくとも最初だけでも、丁寧に、かつ紳士的に尋ねる訳ですが、やはり、私なりに考えてみて、次のような、照会の後先のことを考えた「正しい姿勢」が必要だと思います。
事実関係を整理しておく。
品目分類の考え方や法令通達の適用要件、他法令手続の要否などについて問う訳ですから、事実関係が整理されていないと前提が定まらず、正しい結論が得られません。
また、必要な情報が不足していると、問い合わせを繰り返すことになり、お互いに時間の無駄が生じます。
さらに、事実や事実関係が不明なまま自分の推測を加えると、つい余計なことをしゃべって、議論があらぬ方向(好ましくない方向)に行きかねません。ご注意を。
法令、通達等を調べて、自分の意見を持つ。
法令、通達等を紐解くとき、えてして自分の求める方向の結論に行き着きやすいと思います。
せっかく「専門の役所」に聞くのですから、自分の意見を述べて、反対意見や他の意見、違う見方、異なる考え方も聞きましょう。
そうして得られた回答は、将来に亘って利用可能な解決策になると思います。
「過去にこうした」、「他はこうしている」という言い方は注意が必要。
過去の取扱いが正しかったとは限りません。他税関や他社での事例も同様です。
つまり、大方の場合、「過去にはこうだった。」とか「他の税関官署ではこうしてる。」といった意見は、結論を引き出す根拠にはなりません。
参考になるだけです。
また、「その過去の事例(税率、評価)は間違っているので修正申告して。」と言われたら、対応に困ることになります。
根拠を問うことは構わない。
「法令などの何処に書いてありますか。」と、問うことにためらいがあるかも知れませんが、問題ありません。
また、一般に法令は公開されていますが、通達は非公開のものがあります。
非公開通達は、公開すると政策目的の達成が難しいなどの理由があるのでしょうが、非公開なら非公開と知ることで一つの基準を得ることができます。
通関業者であることを意識する。
全体として、通関のプロとして恥ずかしくない質問をしている、という意識は必要だと思います。
逆に、通関業者、通関士としての資質を疑われるような簡単な質問をすると、後の審査や検査が必要以上に「丁寧」にされることになりかねず、同僚や顧客に迷惑がかかることになるかもしれません。
説明不足は後が面倒になるだけ。
自分に都合の良い事実だけをしゃべって、万一、誤った回答を引き出すと、審査や検査の際に結論がひっくり返ることになります。
つまり、後が面倒になるだけです。
そのまま無事に通関が終わっても、ひっくり返るタイミングを後倒ししただけで、顧客に迷惑が及ぶのは同じです。
以上、通関業者、通関士など、通関のプロフェッショナルが税関への電話照会をするときの心構えなどを、思いつくままに述べてみました。
相談しないという判断もある。
勿論、迷った場合も税関には相談しないという選択肢もあります。顧客に不利な結論になることが予想されるとか、自分の思いもしない指摘を受けて、通関手続が滞ってしまったら元も子もない、という考え方です。
そこは難しい判断ですから、個別の事例に応じて、責任者と共に十分に検討する余地があるでしょう。
ただ、それはイチかバチかであってはならず、プロフェッショナルとしては責任逃れの誹りを免れないかもしれません。
万一、輸入後に他法令の許可が必要だったので、販売商品の回収を命じられたとか、市場投入後に関税や消費税額(仕入コスト)が大幅に増加したとか、輸出後に輸出令上の許可が必要な貨物だったことが判明して、日本への返送を求められたとか、それが新聞に載ってしまったとか、そうなると顧客に多大な迷惑をかけることになります。
よく考えるべきだとは思いますが、状況によって、私は、そういう選択肢も一概に否定できないように思います。
勿論、私も、通関手続や保税蔵置場の運用などについて、ご相談に応じています。ご希望の方は、当方の業務内容やプロフィールに一度目を通されて、どうぞ、電話やメールでご照会ください。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net )
私に対しては、「どうしましょう。」とお尋ねになるのも結構です。秘密は、行政書士法に則って厳守します。
かつ、最初のご相談(1時間程度)は無料です。お気軽にお寄せください。
(最終更新:2023年4月13日)
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