海外旅行から帰ってきた時は、お土産などを税関に申告しますね。
旅行や出張で海外に行くときの常識として、帰国する時には、外国で買ったブランド品やお土産などは税関に申告しなければなりません。今は、電子ゲートもありますが、帰りの機内等で渡される携帯品輸入申告書に記入して、パスポートと一緒に税関職員に手渡す方法が一般的です。
そこで、まさに“ケース・バイ・ケース”で、税関職員からスーツケースやバッグの中身を見せるよう求められ、申告内容が正しいか、日本に持ち込めないものがないか等を検査されることになります。
でも、意外に知られていないのが現金等の持込みと、持出しの申告です。
100万円を超える現金や小切手の携帯輸出入は“申告”が必要
先ごろの報道によれば、中国企業の顧問を務める日本人が、100万円を超える現金を税関に届け出せずに国内に持ち込んだとの理由で、関係先が捜索されたとのことです。
一部の報道では、「外国為替法」違反とアナウンスしていましたが、正確には、「外国為替及び外国貿易法」であり、いわゆる「外為法」です。
外為法第19条(及び外国為替令第8条の2)によれば、100万円を超える現金や小切手等の「支払手段」を輸出(北朝鮮向けは10万円を超える輸出)又は輸入する者は、その旨を税関に届け出る必要があり、これに違反すれば、同第71条によって6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金刑を科せられる、と規定されています。
ここで注意しなければならないのは、まず、帰国時の輸入だけでなく、出国時の輸出も同時に規制されている、ということです。
関税法上は輸出入の許可(申告)を書面で行う必要がある貨物
しかし、一方で、関税法第67条と、同条を受けた関税法施行令第58条(第59条で準用)を見ると、「旅客等の携帯品のうち、支払手段や証券類、金の地金の輸出入時の申告は、書面でしなければならない」とあります。
これで分かるように、外為法上は、「支払手段」は貨物ではありませんが、関税法上は貨物として輸入申告が必要なのです。
そうすると、仮に税関に申告せずに輸出入した場合は、関税法上の無許可輸出入罪が成立します。外為法と比較して、刑の重い方で処罰されるとすると、関税法第111条により、法定刑は「5年以下の懲役若しくは1千万円以下の罰金又はこれを併科する」ということになり、かつ「当該犯罪に係る貨物の価格が1千万円を超えるときは、罰金はその価格の5倍まで上げられる」となっています。
たくさん買い物をするけど、自分は現金主義だから1万ドルを現金で持って行く、という人が仮にいたら、出国時に税関に申告しなければなりません。
外国への出張帰りに、日本の会社に負債があるけど、銀行経由だと沢山手数料がかかるから現金で持って行ってと200万円渡されたら、入国時に税関に申告する必要があります。
ちなみに、紙幣等は関税無税(HS4907.00)です。消費税は非課税ですね。
支払手段とは、現金以外にも、小切手、株券、国債、金の地金をいう
税関ホームページ(URL→こちら)を見ると、 支払手段として輸出入申告すべき範囲のものは、次のものとなっています。
金の地金以外のものは、額面100万円(北朝鮮向け輸出にあっては10万円)相当を超える範囲のものです。
- 現金(日本円、外国通貨)
- 小切手(トラベラーズ・チェックを含む)
- 約束手形
- 有価証券(株券、国債等)
- 金の地金(純度90%以上)で、その重量が1㎏を超えるもの
税関に提出する申告書の様式(URL→こちら)も決まっていて、ダウンロードして使うことができます。
この手続きは、国際的な「テロ資金対策」で強化されたもの
皆さんは、「キャッシュ・クーリエ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。洋画などで、ゴムバンドで巻かれた100ドル紙幣をたくさん鞄にいれて密輸する場面がありますが、「現金の密輸(人)」のことを言います。
キャッシュ・クーリエは、資金洗浄(マネーローンダリング)やテロ資金供与に利用されるため、FATF(ファトフ)が特に取締りを求めているものです。
FATF(Financial Action Task Force :金融活動作業部会)とは、資金洗浄対策等に関する国際的な枠組みで、日本もその中心的な役割を担っていて、関税法上の取締り強化策は、2008年6月から実施されています。
FATFは、銀行も審査するし、政府要人等の関与も厳しくチェックする
FATFは、金融庁や警察庁のホームページから詳細を知ることができますが、個人の支払い手段の輸出入もさることながら、やはり銀行等の金融機関がメインで、きちんとマネロン対策を踏まえた外国為替業務や銀行業務を行っているかを厳しく審査します。
例えば、2013年6月のFATF勧告を見ると、特にPEPs( Politically exposed person(s) )、つまり、政府の要人、政治家などの重要な公的地位を有する人々に対しての対応の厳格化を求めています。
外国のPEPsと日本のPEPsに対して、万一にもマネロン対策やテロ資金供与対策が十分に図られていないと判断された場合は、当該金融機関の信用問題に発展するかもしれません。
AEO事業者の皆さんは特にご注意を
今回は、IR関連施設の誘致に絡んで、中国企業とその日本法人などが捜索対象のようですが、こうして見てみると、一般に考えるよりも問題は深く、犯罪が成立すれば、国際的な取組みの影響もあって厳罰化が予想されます。
特に、AEO認定事業者の皆さんにあっては、この機会に、現金や有価証券等の税関への申告を失念しないよう、社内教育等で注意喚起されることをお勧めします。
今の自社の取引環境で現金や手形を社員が持って行く場面や、持って来る場面は想定し難いかもしれませんが、万一のことがあると取引銀行への説明に窮するかもしれず、まあ、念のために、ということで。
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