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AEO認定事業者

税関事務管理人の仕事は難しいか

今年も、関税法等の一部を改正する法律案(⇒ 令和5年度関税改正法案)が国会に提出されました。今月14日には衆議院を通過しています。

日本の関税率のうち、暫定税率(412品目)は、毎年度末(3/31)まで、暫定的に設定されている税率です。なので、暫定税率を延長する場合や見直しをする場合は、必ず関税暫定措置法の改正を国会に諮る必要があります。いわゆる「日切れ法案」と呼ばれる法案の一つです。

また、この法案は、税率の延長等に限らず、関税率審議会等での議論に基づいて、様々な関税に関する問題を改善するものでもあります。

今回の改正案には、FS(アマゾン等が提供するフルフィルメント・サービス)に関連して、税関事務管理人( ACP:The attorney for the Customs procedures )の制度の見直しが含まれていますので、今回は、この税関事務管理人について、少し深堀してみようと思います。

税関事務管理人はVMIの広がりを背景に生まれた

1980年代に、米国の小売業界から始まったVMI(Vender Managed Inventory、納入側在庫管理方式)による物流形態は、その後、日本の製造業におけるサプライチェーンの中で、JIT(Just in Time)方式の進展に合わせて、海外から輸入供給される部品や素材等の供給分野にも広がりました。

例えば、日本のセットメーカーが、国内の部品等の在庫状況を見ながら、必要の都度、外国に部品等を発注する形態だと、注文から納品まで時間がかかるし、サプライチェーンのコントロールが難しい、という問題があります。

これに対してVMIは、一言でいえば、外国の部品メーカーや供給者(ベンダー)が、自ら日本国内に在庫を置いて、これを管理し、セットメーカーの生産状況や在庫状況を見定めながら、その要請に応じて細やかに、かつ迅速に供給するという体制です。

つまり、日本のセットメーカーは、従前同様に、自社で部品在庫を管理する必要はありません。また、不足する部品の注文先は以前と同じです。しかも、その部品そのものは既に日本にあって、或いは、工場近くのベンダーの倉庫にあるので、待たされることはありません。

最近では、JIC(Just in Case)重視の考え方から適正在庫の考え方そのものが変化して来ていますが、このVMIの手法は、今後も益々重要になるのではないかと思います。

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税関事務管理人は、なぜ必要なのか

このVMIは、非居住者が国内に自らの事務所等を設けないで、日本国内の倉庫事業者に管理、配送等を委託するケースが多いと思います。

その際、輸入許可を受けて部品等を保管する場合は、非居住者自身の名義で輸入(納税)申告を行うこととなります。また、部品等を一旦保税地域に入れて保管し、必要の都度輸入するケースもありますが、この場合も、蔵入(IS)承認申請は、当該非居住者自身の名義で行う必要があります。

本来、関税法では、日本国内に拠点等を有しない非居住者でも輸入申告(手続き)は可能で、当該貨物の関税等を納税し、その他問題がなければ、輸入の許可を受けて保税地域から貨物を引き取ることはできます。

しかし、非居住者の税関手続には、それなりにリスクもあります。

例えば、輸入申告事項に誤りや疑問点があるとき、税関検査で異常が見つかったときに、非居住者が直接対応するのは困難です。税関との間に通関業者が入るとしても、時間がかかるとか、意思疎通が難しいという場合が想像できます。

このため、VMI等の際の手続きの便宜を図る観点から、平成15年度の関税改正で、非居住者が税関手続を行う場合に、日本国内で、輸入者に代わって書類の送達等の事務処理を行う居住者を定める制度が設けられました。これが、「税関事務管理人制度」です。

勿論、税関側にとっても、この制度は必要です。

当時、所得税等の場合は、非居住者のための「納税管理人制度」が既にあったので、それと同様に、税関事務管理人が、税関からの通知の受領や、還付される税金の受領といった事務を非居住者に代わって行うことが期待されました。

そして、翌平成16年度改正において、関税法第94条の「帳簿等の備付け等」の規定の整備に併せて、税関事務管理人が保存しなければならない帳簿書類が規定されました。

その際、税関事務管理人は、その処理した税関手続に関する保存すべき帳簿書類を保存し、税関から提示を求められたらこれに応じるべきこととされました。

その後は、帳簿書類の保存規定の改正等に併せて、この規定もマイナーチェンジを繰り返し、現在に至っています。

税関事務管理人の役割は何か

関税法の規定(⇒ 関税法第95条)を要約すると、非居住者に対して、税関事務管理人を選任することなどについて、概ね、以下のように規定されています。

  1. 税関関係手続を行う個人又は法人が、日本に住所や事務所等を有せず、若しくは有しないこととなる場合で、税関関係手続等を処理するときは、日本に住所や事務所を有する者で、その税関関係手続等の処理について便宜を有するものの中から税関事務管理人を定めなければならない。
  2. 税関事務管理人を定めたとき又は解任したときは、その税関関係手続に係る税関長にその旨を届け出なければならない。
  3. 税関事務管理人は、関税法の規定により保存すべきこととされている関税関係帳簿及び関税関係書類等について、税関から提示を求められた場合はこれに応じなければならない。その際、当該申告者等は税関事務管理人に必要な便宜を与えなければならない。
  4. この税関関係手続とは、輸入申告その他関税に関する法律に基づく手続のことを言い、入出国者がその入出国の際に行う申告など、政令で定めるものを除く。

つまり、税関事務管理人は、まず、輸入申告等の税関関係手続を非居住者に代わって行うこと、輸入者の義務である帳簿書類の保管、税関への提示をしなければなりません。

この税関事務管理人が行う税関関係手続には、次の事務を含むとされています。(⇒ 関税法基本通達95-1

  • 関税法等に基づく検査の立会い
  • 税関が発する書類(NACCSによる通知を含む。)の受領
  • 税関から申告者等が受領した書類の送付
  • 関税の納付及び還付金等の受領

また、税関事務管理人を定めなくてよい税関手続としては、以下のとおり列挙されています。(⇒ 関税法施行令第85条

  • 本船の入出港手続
  • 外国貨物の仮陸揚届
  • 沿海通航船等の外国寄港の届出等
  • 船舶又は航空機の資格変更手続
  • 沖縄県から出域する旅客の携帯品免税手続
  • 自家用自動車の通関手帳(カルネ)又はATAカルネ手帳による輸出入手続

税関事務管理人の役割は、以上の規定に収束される訳ですが、特に、帳簿書類等の税関への提示義務は、解任等された後も、その義務を負うことに留意する必要があります。

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FS貨物も税関事務管理人が必要となる

昨年11月24日に開催された「関税・外国為替等審議会 関税分科会」において、急増する輸入申告への対応として、税関事務管理審制度の改正などが議論されました。(⇒ 関税・外国為替等審議会 関税分科会 資料

その資料の中で、現状について、大要、次の様に指摘しています。

  • 最近の航空貨物においては、輸出者等との契約で、輸入者等への配送までの一貫サービスを提供している業者が取り扱っている貨物が大半である。
  • これらの中で、特にインターネット通販サイト(ECサイト)を通じて海外の販売者等によって販売され、国内の購入者に直接配送される通販貨物の取扱件数が急増している。
  • 加えて、輸入後にECプラットフォーム等が提供する倉庫保管、配送等を代行するフルフィルメントサービス(FS)を利用して国内で販売することを予定して輸入されるFS利用貨物の輸入も目立ってきている。
  • そうした中、航空貨物を使った不正薬物や知的財産侵害物品の密輸が多数摘発されている。
  • また、特にFS利用貨物について、非居住者が、輸入実績のある居住者の名義を勝手に使用する、いわゆる「なりすまし」事案が発生している。
  • さらに、FS利用貨物では、不当に低いインボイス価格による脱税事案が顕在化している。
  • 今後も円滑な輸入環境を維持しながら、不正薬物等の取締りや適正な税収を実現していくためには、通販貨物やFS利用貨物等の特徴を考慮したリスク管理等が可能となるよう、制度の見直しを行うことが急務である。

そのため、税関事務管理人を通じて税関が非居住者に的確に連絡できるよう、また、非居住者の事業内容等を把握して、その状況に最も適切な者を税関事務管理人として指定できるよう、次のことを求めるとされました。

  1. 非居住者に対し、税関事務管理人に処理させる必要がある事項を明示して、期限を指定して税関事務管理人の届出を求める
  2. 国内便宜者に対し、非居住者の税関事務管理人となることを求める
  3. 非居住者が①の期限までに税関事務管理人を届け出ないときは、税関長が②の国内便宜者のうちから特定税関事務管理人として指定する
  4. 非居住者が税関事務管理人を定めた場合の届出項目に「届出者(非居住者)の事業」、「届出者(非居住者)と税関事務管理人との関係」等を追加する
  5. 届出を行う非居住者に対して、税関事務管理人との委任関係を証する書類の提出を求める

税関事務管理人と通関業者の関係は

税関事務管理人が複数の非居住者の委託を受ける場合は、注意が必要です。

例えば、非居住者であるAさんの税関事務管理人「甲」が、Aさんの依頼を受けて、Aさんに代わって輸入申告の手続きを行うことはできるでしょうか。自分の貨物の輸出入通関を通関業者に依頼しない、いわゆる「自社通関」は、一般に誰でも可能なので、税関事務管理人が個別に依頼を受けてこれを行うことは問題ないと思います。

しかし、Aさんの税関事務管理人「甲」が、非居住者 Bさんの税関事務管理人でもあって、同時に Bさんの代理として輸入申告の手続きを行う場合はどうでしょうか。

この場合は、通関業法上の通関業務を業として行うこととなりますので、あらかじめ税関長の許可を受けた通関業者でなければなりません。

FS貨物は、最終的に複数の顧客に販売する商品も多いと思います。

非居住者の指示に従って、最終顧客である複数の居住者の名義で輸入申告する場合はどうでしょうか。この場合、当該複数の顧客からそれぞれ個別に通関業務の依頼を受けた通関業者である必要があります。

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税関事務管理人とはどの様な人が良いのか

税関事務管理人が通関業者である場合は、前述のように、通関業務の観点でスムースな処理が期待できます。

一方で、貨物が空港や海港に到着してから通関を終えて保管場所に収まるまで、航空フォワーダーや海貨業者に取り卸しや運搬等を依頼しなければならないとしたら、その事業者に同時に通関業務をお願いできれば、それほど費用に変わりはないようにも思います。

それより、税関事務管理人は、非居住者とのスムースな連携、情報の共有、円滑な書類等の受渡し、帳簿書類の保管、税関の事後調査への的確な対応が求められると思います。

そのためには、税関事務管理人として、非居住者のために税関への対応をしっかり行う者、非居住者への対応もしっかり行う者であることが重要です。

つまり、輸入申告手続き等に関する十分な知識があり、非居住者に対して、知的財産の侵害可能性などの助言ができる者、個々の輸入申告における課税価格や品目分類、関税率の選択、原産地証明手続き等に関して、的確に助言できる人が良いように思います。

その辺りが、税関事務管理人が the Attorney(法律家)と訳されている所以だと思います。

また、できれば、その非居住者の近くに事務所等があるか、きちんとした協力者を持つ法人や個人であれば、当該非居住者との円滑・迅速な情報のやり取りも、より円滑にできるでしょう。

そうした関係法令や輸出入手続き、通関手続き等に関する十分な知識があって、英語等によるコミュニケーション能力にも長けている方であれば、スタートアップも面白いかもしれません。

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