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AEO認定事業者

現実支払価格には貨物代金以外に支払ったお金が含まれる、場合がある

前回までに、

  • 関税評価とは、「税関への申告価格(Customs Value)を算出するルール」であり、
  • その算出方法(Valuation)は、「原則的な方法」と「原則によれない場合の方法」があること、
  • それが、輸入取引(売買:Transaction)によるものであり、
  • 売手と買手との間に特殊関係の影響がないなどの要件が証明できれば「原則的な方法」によって算出できる

と説明してきました。(→ 申告価格を誤る理由を考える

また、「原則的な方法」とは、

  • 「現実支払価格」(商品代金の総額)に、
  • その含まれていない限度で「運賃などの費用の金額」(加算要素)を加算した価格であり、
  • 一般的には、インコタームス上の、CIF(運賃保険料込み)価格に相当するので、
  • 仕入書(Invoice)がCIF価格であれば、仕入書価格(Invoice Price)によることができる

とも説明しました。(→ 取引価格を理解することから始めよう

今回は、この「現実支払価格」を少し、詳しく見ていきたいと思います。

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値引きがあれば値引き後の価格が認められるか。

インボイス上の価格(建値)がCIF価格であったとして、まず、現実支払価格は、その輸入取引における実際の決済条件に対応する現実に支払われた価格、とされています。

例えば、「数量値引き」が貨物の輸入申告の時までに確定していて、その値引き後の金額で実際に支払いがなされている場合には、その値引き後の価格が現実支払価格となり、これに基づく価格が関税の課税価格となります。

また、例えば、現金決済によることを理由に売手から「現金値引き」が与えられる場合には、当該値引き後の価格に基づく取引価格が課税価格となります。

その取引に絡んだ「別払い金」は現実支払価格を構成する。

一方、その輸入取引を行うために必要な何らかの支払いが別払いとしてなされている場合には、その「別払い金額を加えた価格」が現実支払価格となります。

例えば、輸入契約の際に、決済金額とは別に「割増金」とか「契約料」などを支払っていた場合には、これらの金額は、現実支払価格の一部を成すことになるので、インボイス価格に加える必要があります。

また、例えば、契約はFOB(本船甲板渡し)条件だったが、輸出国内の一部の運送費用を輸入者が運送者に別払いすることになっていて、インボイス上の価格(決済金額)にその輸送費の金額が含まれていなかった、などという場合も、やはりその別払い金額をインボイス価格に加算して課税価格を算出する必要があります。

何らかの「別払い金」が、その輸入取引を行うために、買手から売手に支払う必要があるものである場合は、その費用は現実支払価格に含む、ということです。

では、売手に渡した「袖の下」は課税価格に含むのか。

実際の「別払い」は、その他にも、いろいろな原因で生じます。

例えば、商品自体の開発費用を別に送金していたり、仲介者や代理人への手数料の送金であったり、商標等の使用の対価の支払いであったり、保管料や検査費用を当該倉庫業者等に支払うものであったりします。

その都度、課税価格に含めるか否かをよく検討し、含めるにしても、含めないにしても、どういう理屈付けでそうなるか、支払いの状況をよく見て検討する必要があります。

この段階で、私が時々考えるのは、買手が売手に支払った「袖の下」などの取扱いです。

全体に、その輸入貨物の契約を結ぶために必要な費用として、税務会計上の「仕入原価」に含まれるのであれば、課税価格に含む必要があるように思います。

また、その現金の支払い先が仲介者であれば「仲介手数料」に該当し、現実支払価格に含まれるのではなく、後で述べる「加算要素」として、課税価格に含まれることになるでしょう。

では、例えば、現金の授受や送金ではなく、売手の担当者に3,000ドルのロレックスの時計を送った、とか、現地で三日三晩接待漬けにした、とか、家族と共に売手を日本に招待して温泉巡りをした、という場合の費用はどうなるでしょうか。

税務会計上は、「交際費」に計上されるとしても、その輸入取引をするに必要不可欠な費用とみなされれば、課税価格に加算する必要があるのでしょうか。まあ、ケースバイケースで判断されることになるでしょうが、機微な問題に違いありません。

ちなみに、「別払い」とは全く関係のない話ですが、「袖の下」や接待が、外国の公務員や検査機関の職員に対する賄賂にあたると判断されると大変なことになるのはご存じでしょうか(→ 【60秒解説】海外取引の隠れたリスク:外国公務員贈賄罪、経済産業省)。

このような場合、不正競争防止法第18条(外国公務員等に対する不正の利益の供与等の禁止)に該当するおそれがあり、違反だと判断されると同法第22条の規定により、本人は、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又は併科」されます。

また、その会社自体も、「法人の代表者、代理人、使用人その他の従業者が、その法人の業務に関して当該違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して3億円以下の罰金刑が科される」こととされていますので、十分な注意が必要です。

Smile- Rakib Ahmed Riad, Pixabay
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「弁済」も、現実支払価格に含まれるべき。

「弁済」の金額は現実支払価格に含まれます。「弁済」とは、売手が第三者に対して負っている何らかの負債を、当該売手に代わって買手が支払うことです。

輸入契約の際の実際の商品代金から、この弁済額を差し引いて仕入書価格が作成されている場合は、当該弁済額を現実支払価格の一部として課税価格に含む必要があります。

例えば、外国のあるメーカーが、日本の他の需要者に対して、以前に輸出した不良品による損害賠償金の支払い義務を負っていたとします。

そして、買手は、売手に代わって当該損害賠償金をその需要者に支払うことを依頼され、輸入取引契約で取り決めた商品代金の金額からその賠償金額を差し引いた金額を送金することとしたとします。

この場合、当該差し引き後の金額(送金額)でインボイスが仕切られていた場合には、そのインボイス価格は「低価(Under Value )」となります。

特にクレーム相殺に注意が必要。

「相殺」とは、売手が買手に既に追っている債務を、取引価格の一部から差し引いて、いわゆる「棒引き」(棒消し、帳消し)にすることです。よくあるのが「クレーム相殺」などです。

例えば、売手と買手の間で、以前の取引で輸入した商品が一部不良品であって、その量が多かったので、売手に対して損害賠償か、代替品の送付を交渉した結果、次の取引価格から差し引いて送金して欲しいと言われた場合などがこれに当たります。こうした場合、一般的に、インボイス価格は送金額に合っていると思います。

このケースでは、相殺する前の価格が貨物の現実支払価格なので、関税の課税価格を計算する際には、相殺金額を算入する必要があります。

実際、「現実支払価格」という文言だけを見たとき、「現実に支払った価格」は、相殺後の価格や弁済後の価格なのだから、この(値引き後の)価格が「現実支払価格」ではないか、という考え方もあるでしょう。

まあ、そういう理屈付けもできるのでしょうが、国際的には、「弁済(相殺)した金額」は、本来のその輸入貨物の代金の一部である、「間接的な支払い」である、という考えで統一されています。その様に決まっている、ということです。

評価条約においては、貨物代金の支払いは金銭の移転によることを要さず、直接的又は間接的とを問わないとしており、間接的な支払の例として、「売手が負っている債務の全部又は一部を買手が“清算”すること」と明記しています(→ Note to Article 1 ⇒ “An example of an indirect payment would be the settlement by the buyer, whether in whole or in part, of a debt owed by the seller. “ )。

Muenster- Erich Westendarp, Pixabay
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輸出国での保管費用を買手が払った場合の費用は加算すべきか。

先にも少し触れましたが、この現実支払価格のところで、ときおり問題になるのが、「保管費用」と「検査料」です。

輸入貨物の一時的な保管や品質検査等の行為を、輸出国での輸出前に行った場合、それらの行為が買手のためか、売手のためか、誰が費用を負担したか、建値(インコタームス)はどうなのか等によって、現実支払価格に含まれるかどうかが違ってくるからです。

保管費用について言えば、契約条件に基づいて買手に引き渡されるまでの間に輸出国(積替え国)で保管される場合、当該保管費用で買手が負担するものは現実支払価格に含まれることになっています。

一方、買手に引き渡された後に、買手が自己のために当該輸入貨物を輸出国において保管する場合は買手が負担する当該保管費用は現実支払価格に含まれません。

また、当該保管費用が輸入港までの運送関連費用(CIF条件の「F:Freight 」)に該当する場合は、現実支払価格に加算する(加算要素となる)こととなります。

例えば、買手が、売手と輸入貨物の売買契約をEXW条件で締結しているとして、さらに、その取引契約の中で、当該貨物の輸出の前に売手が自社倉庫で保管するための保管料を買手が別途支払うことになっているとします。

当然、売手は、契約金額(EXW条件)でインボイスを作成しますので、当該保管業務が生じたか否かも含め、インボイスからは分からない訳ですが、その現実支払価格は、インボイス価格に当該保管費用として別に支払った金額を加える必要があります。

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売手が行った検査の費用を買手が負担した場合は課税価格に算入する。

輸入する貨物の種類や相手国、相手方の状況に応じて、輸入貨物が売買契約に定める品質、規格、純度、数量等に合致しているか否かを確認するための検査や分析をすることはよくあります。

この場合の検査費用については、売手が自己のために行った検査の費用で、買手が負担するものは課税価格に算入することとなっています。また、この「検査」は、売手が直接行ったものに限らず、売手又は買手の依頼を受けた検査機関等の第三者が行った場合も含まれます。

一方、買手が自己のために行った検査の費用で、買手が負担するものは、課税価格に算入する必要はありません。

これらのことは、売手と買手との合意に基づいて、検査機関等が行った検査の費用の全部又は一部を買手が負担する場合も同様です。

例えば、買手が、売手と製造・販売契約した電化製品について、買手の要求どおりに製造されているかどうか本来製造者が行うべき製品検査を行うことになり、売手との交渉の中で、買手がその費用を別途検査機関に支払うことになったとします。

この場合の検査費用は、売手のため支払うもの(間接支払)であり、現実支払価格の一部として、インボイス価格に算入する必要があります。

一方、買手が、売手と費用を折半して輸入貨物の品質検査等を輸出地の検査機関に依頼することを契約条件としている場合を想定します。

この場合の検査が、買手のためでもあり、売手のためでもあると認められれば、買手が当該検査機関に送金する検査料は、買手自身のための検査の費用であるので、現実支払価格の一部とはならず、また、売手が負担する検査費用は、貨物代金に含まれているはずなので、改めて論じる必要はない、ということになります。

検査費用で、一点、注意しなければならないのは技術者を派遣した場合です。

買手が、買手の都合で、輸入貨物の製造過程において行う検査の費用は、先に示したように課税価格に算入する必要はありませんが、検査と合わせて「製造作業」に従事した場合の 「当該業務を行う者に係る費用」は売手のための間接支払に該当することとなるので、注意が必要です。

この場合の「製造作業」とは、加工又は生産のための作業や、加工又は生産のための運搬等を含むとされています。

また、その「費用」には、当該業務を行う者に係る渡航費用(支度金を含む。)、滞在費用、賃金等(直接労務費に相当する費用)が該当します。

実態として、少しでも製造作業に従事していれば、その間のこうした費用はインボイス価格に加算するための申告(評価申告)が必要となります。

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これまで述べて来た現実支払価格に関する説明や事例による解説において、設定した条件は、個々の契約内容や決済の取決め、或いは他の様々な要件、条件や背景によって結論が変わる可能性があります。

よって、自社の取引内容の現実支払価格の算定方法など個別に判断する必要が生じた場合も、上の様々な例示の結論をそのまま採用すること大変危険です。

疑問に思われたことは、まず、ご利用の通関業者や最寄りの税関の評価部門にお問い合わせされることをお奨めします。

※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※

勿論、私も、関税評価に関する個別の問題や、基礎的な社内教育などについて、ご相談に応じています。

また、関税評価の知識が必要な場面として、税関の事後調査における対応に当たってもアドバイスが可能です。詳細は、こちらをご覧ください。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net

最初のご相談、ご質問(1時間程度)は無料です。

ご希望の方は、当方の業務内容やプロフィールに一度目を通されて、どうぞ、電話やメールで、お気軽にご照会ください。(→ お問い合わせ

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