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EPA原産地規則

COVID-19が促す「China +1」に必要な原産地規則の知識

日本政府がTPPの拡大を急ぐ。

3/21日の日本経済新聞(朝刊)によれば、政府はTPP(環太平洋経済連携協定)のアジア各国への拡大を急ぐ考えの様です。

今回の新型コロナウィルス禍(COVID-19)によって、中国に大きく依存している日本の様々な製造業のサプライチェーンの脆弱性が顕現しました。中国では、主要都市部における賃金の高騰や、投資環境の不確実性等を踏まえて、もう随分以前から、いわゆる「China+1」の動きはありました。でも、広範囲な地域の生産と消費が突然ストップするという事態の発生で、そうした効率化の観点とは異なるリスクに、漸く目が覚めたという印象です。

TPPは、トランプ大統領の米国が脱退した後、TPP11(CPTPP)として発効してもう1年以上経過しました。ちなみに、今、日本を含め実際にTPPが発効している国は、カナダ、メキシコ、オーストラリア、ニュージーランド、ベトナム、シンガポールの7か国です。

先ほどの新聞記事によれば、新たにTPPへの加盟の動きを見せているのは、タイや台湾、インドネシア、フィリピンなどですが、他にEUを離脱した英国なども興味を示していると以前から報道されています。

日本ではEPAに軸足が移っている。

一方、TPP発効後の貿易上の大きな動きとして、やはり、日EU・EPAと日米貿易協定の発効が挙げられます。いずれも、日本の輸出入貨物の動向、市場の動向に相当の影響を及ぼしています。

他方で、日本が開発途上国の産品に対して低い関税率を設定する「一般特恵関税(GSP)制度」については対象国が縮小しています。2019年4月から、中国をはじめ、タイ、マレーシア、メキシコ、ブラジルが卒業しました。いずれも、日本との貿易量が比較的大きな国々です。そうすると、輸入時に選択的に低い関税率を適用して貿易を促進する政策としては、必然、EPAに軸足が移って来ています。

TPP等の加盟国が拡大すれば、貿易のみならず、投資や知的財産の保護などの価値観を共有する国等の経済圏による囲い込みが進み、日本への輸入だけでなく、日本からの輸出品についても、輸入地でのEPA適用に軸足が移る動きは益々加速するでしょう。

ステージングで知らない間に差が開く。

また、特にTPPや日EU・EPAは、日本の産業等に影響が大きい品目、つまり、比較的関税率が高い品目について「ステージング」を用いてその影響を緩和する手法を用いています。

言い換えれば、これまで関税率を高くして国産品に競合させていた海外の品物について、年々、EPA税率が下がっていき、輸入品の価格競争力が高まっていくことになります。機微な製品のEPAを利用するメリットが、年々高まっていく仕組みです。

(EPA税率のステージングの詳細については、税関ホームページの原産地ポータル(→ こちら)をご参照ください。)

ということは、年々、EPAを利用している輸入者の、或いはEPAを利用して米国や欧州、東南アジアへ輸出している者の相対的優位が高まっていく。反面、EPAを使わない方の不利益はどんどん増えて行くことになります。

また、一昨年から続く米中貿易摩擦が、今後収束に向かうという動きはまだ見えてきません。米国に輸入される中国産品に高率の関税が課されている現状で、今年から来年にかけての不透明感は未だ改善されていません。米国のデジタル規制強化の動き等に鑑みて、むしろ悪化することもありうるとすれば、生産場所の日本回帰を含む移転等の選択肢は十分に検討される必要があります。

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原産地規則は協定ごとに異なる。

さて、こうした動きに共通する重要な注意点は、原産地規則です。

例えば、米国から輸入する牛肉に日米貿易協定に基づく低い関税率を適用したい場合、米国原産品であることを「日米貿易協定の原産地規則」に照らして確認するとともに、輸入時に輸入者が文書で証明する必要があります。

同様に、オーストラリアから輸入する牛肉にTPPに基づく低い関税率を適用したい場合は、「TPPの原産地規則」に照らして、オーストラリア原産品であることを確認するとともに、原産地の証明をしなければなりません。

牛肉は、まだ加工の度合いが少ないので問題は少ないでしょうが、加工食品や衣類、機械部品、生活雑貨等の場合は、各協定で合意された原産地規則上の加工基準が異なることが考えられ、それぞれの規定に沿って、事前の詳細な検証が必要になります。

原産地規則は品物によって異なる。

例えば、中国で生産していた電気製品の生産をベトナムに移転したい、日本に移したい、と考えた時に、部品の多くを中国からベトナムや日本に輸入して組み立てるだけでは、原産地規則上、ベトナム製品や日本製品として認められないのが一般的です。では、どの部品なら中国製が認められて、どの部品はどの様な加工が必要か等のルールは、それぞれの部品等の品目分類番号や加工の度合い、価格割合等によって異なります。

原産地規則は難物です。勿論、それ以前に、関税率表を読む知識、品目分類の知識も必要です。現在の様に多くの商品寿命が比較的短くなり、高機能で、高付加価値になり、原材料の供給源が多様化する中で、自社製品の材質や製造工程が常に変化するなら、日常的に、かつ即応できる品目分類と原産地規則の知識が必要です。

(協定別の原産地規則の詳細は、原産地ポータルの一覧表(→ こちら)を、品物ごとの検索は、(→ こちら)ご利用ください。)

原産地規則を理解する好機とみるか。

COVID-19で実際のリスクが見えたところで、サプライチェーンの変更は簡単ではないでしょう。でも、リスクの分散、全体業務の効率化、原価の低減、費用の軽減など、様々な観点から、もしその方向を探るなら、或いは日本回帰を考えるなら、それは早いに越したことはありません。

また、今、COVID-19によってモノが作れない、動かない、売れない状況であるのなら、先の見通しが難しい状況であるのなら、それは少し歩みを止めて、組織の方向、方針を再考する時間を得たとも言えるのではないでしょうか。

今こそ、モノの流れに携わる全部署のスタッフに品目分類と原産地規則の知識を得ていただく好機ともいえるのではないでしょうか。

そのための支援策は、政府や関係省庁、党税制調査会等でも検討されています。3月25日付日本経済新聞(朝刊)によれば、政府は日本政策投資銀行の仕組みを利用して日本企業の生産拠点の再配置を支援する意向だと報じています。また、経済産業省は、サプライチェーンの見直しに関する支援を含めた対策をまとめ、公表しています。(詳細は、→ こちら

また、品目分類や原産地規則等に関する知識は、税関ホームページや原産地ポータルが活用できるほか、各税関の専担部門の窓口で、事前教示や個別の照会等にもきちんと対応してもらえるものと思います。

勿論、原産地規則等に関する基本的なご照会、社内教育の実施につきましては、当方(→ こちら)も十分に対応可能だと思っております。

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