昨年10月に行われた第58回通関士試験において、第2科目「関税法等」の第3問に「輸入の許可前における貨物の引取り制度」に関する問題が出題されました。
今回は、この「輸入許可前引取り制度」(いわゆる「BP」)について少し解説します。
輸入許可前引取り制度とは、税関の許可の前に貨物を輸入する(保税地域から引き取る)ことができる制度
最初に、そもそも、この制度における「引取り」とは、何をどこから引き取ることでしょうか。
関税法上の「輸入」とは、基本的に、「外国から到着した貨物を保税地域から国内に引き取る」行為をいう、とされています。(⇒ 関税法第2条第1項第1号)
つまり、ここで言う「引き取る」とは、外国から到着した貨物を「輸入する」と同義ということですね。
そうすると、「輸入許可前貨物引取り制度」というのは、税関の許可を受ける前に、当該貨物を輸入する(保税地域から引き取る)ことができる制度、であるということが分かります。
この制度を規定する関税法の条文(⇒ 関税法第73条第1項)は、概ね以下のとおりです。
関税法第73条第1項
外国貨物(特例申告貨物を除く。)を輸入申告の後輸入の許可前に引き取ろうとする者は、関税額(加算税を除く。)に相当する担保を提供して税関長の承認を受けなければならない。
そうすると、保税地域から引き取られる貨物は、「外国貨物」というのが正しい訳ですが、条文では、「特例申告貨物」を除くと、されています。
特例申告貨物とは、関税法に規定する認定事業者(AEO)制度の認定を受けた輸入者(=特例輸入者)や通関業者(=認定通関業者)によって輸入申告される貨物で、基本的に、関税等の納税を後回しにして輸入の許可を受けることができる貨物を言います。
この特例申告貨物と輸入許可前引取り制度の関係について説明するには、この輸入許可前引取り制度の目的や理由を知る必要がありますが、その前に、輸入の「許可」と「納税」の関係を、まず整理しておきましょう。
輸入の許可は、原則として、関税や消費税等の納税がされた後
本来、税関長(=税関)による輸入の許可は、特例申告貨物等の一部の貨物を除き、原則として、その貨物に係る関税や消費税等の申告がなされ、適正に納税がされた後に行われる、という決まりになっています。(⇒ 関税法第72条)
これは、そうでないと、例えば、貨物が国内に入ってから関税等の納付を求めても、正しく徴税されない恐れがあるから、だと理解できます。
しかし、実情としては、輸入貨物の一部は、NACCSで輸入申告されて、税関職員の審査や検査を経ずに(これを「区分1」と言います。)納税手続がなされ、許可になって、保税地域から搬出されています。
つまり、輸入(納税)申告書(NACCSの輸入(納税)申告データ)に、輸入者(=納税者)が誰なのかということや、課税価格や関税額、消費税額等が記載され、その申告どおりに納税されていれば輸入許可になって、引取りを認めている訳です。
その申告価格や税額が正しいか間違っているかに関係なく、です。
そうであれば、この際、区分1になった貨物の「納税」は、「輸入の許可」と切り離しても良いように思えてしまいます。
まあ、NACCSで納税方法が口座振替方式になっていれば、区分1の貨物は輸入申告と同時に許可になるので、既に、実質的には「納税の後に許可」ということを考えなくとも済みます。
一方で、口座振替方式等になっていなければ、やはり納税が済まなければ輸入許可にはならない状況になっていて、先に述べた様に、区分1の貨物は全体に、もう少し納税義務を緩和する余地があるようにも思えます。
話題を、元に戻します。
いずれにしろ、輸入許可前引取り制度は、関税等を納付することなく輸入貨物を引き取る(=輸入する)ことができる制度で、いわば特別な制度であるということですね。
関税の納期限の延長を目的とするものは納期限延長制度を利用する
さて、輸入の許可前に、つまり「納税」をせずに貨物を引き取る方法として、この輸入の許可前引取り制度とは別に、「納期延長制度」があります。(⇒関税法第9条の2第1項、第2項)
こちらは、確定した関税や消費税の納付の手続だけを後回しにする、つまり、輸入が許可された貨物の関税の納付の期限(納期限)の延長を目的とするもので、輸入許可前引取り制度と同様に、税額に相当する担保を税関に提供して、貨物を引き取ることができるというものです。
逆説的に言えば、関税の納期限の延長を目的とする場合は、この納期限延長制度を利用するのが正しく、輸入許可前引取り制度を利用することはできない、と理解しておいてください。
納期限延長制度を利用すれば、その税関の輸入許可を得た(=内国貨物になった)上、最長3か月間、関税等の納付期限を延期できます。
今回は、輸入許可前引取り制度の解説なので、納期限延長制度についての説明はこの程度にとどめておきたいと思います。
輸入許可前引取り制度のハードルは高くない?
さて、では、どの様なときに、この輸入許可前引取り制度を利用することができるのでしょう。
答えの一つは、関税法基本通達73-3-2に列記されていて、概ね、次のように運用することとされています。
1.輸入の許可を与えることができない場合(法第73 条第2項)や、専ら関税の納期限の延長を目的とするなど、明らかに制度の本旨に反すると認められる場合を除いて、有税品か無税品かに関係なく、輸入許可前引取り制度の承認をして良い。
2.特に、次に掲げるような場合には、輸入許可前引取を承認して良い。
(1)次のような、税関側の事情により輸入許可が遅延する場合
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- 新規輸入品などで課税標準(=申告価格)の審査に日時を要する
- 分析や検定を要するなど、HS品目分類の審査に日時を要する
- 免税に該当するかどうかの審査に日時を要する
- セット課税になる貨物の一部が未到着であるなど、分割して輸入する必要がある
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(2)次のような、申告者側において特に引取りを急ぐ理由があると認められる場合
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- 消散、漏洩、変質又は損傷のおそれがある
- 動植物、貴重品、危険物等である
- 報道用の写真又はフィルムである
- 展示会等に出品のため時間的制約がある
- 輸入貨物である原料の在庫がなく、工場の操業等に支障をきたす
- 設計その他の都合によって工場の管理面に支障をきたす
- その他取引先への納期が切迫している等の理由がある
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(3)次のような、申告者側の事情によって輸入許可が遅れる場合
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- プロフォーマ・インボイス又は揚地ファイナル契約等の理由により、課税標準の決定(=申告価格の算出)に日時を要する
- EPAの適用に必要な「締約国原産地証明書等」(運送要件証明書を除く。)又は特恵税率等の適用のために必要とされる「原産地証明書」の提出が遅れるケースで、あらかじめ税関長の承認等(関税法施行令第61 条第4項、関税暫定措置法施行令第28 条ただし書)を得たもの
- 免税関係書類を整えるために日時を要する
- その他、提出を求められた輸入申告関係書類の提出が遅れる
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(4)その他、次のような場合
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- 作業終了届の一括提出を認められた保税工場製品を輸入する場合で、その作業終了届の提出が遅延する
- 試運転用の燃料油、助燃剤又は潤滑油を船舶に積み込む
- その他、税関長が許可前引取を承認すべきやむを得ない理由があると認める場合
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結構、太っ腹な印象がありますね。
もっとも、上に記載した貨物のいずれにあっても、条文に明記されているように、輸入許可前引取り制度の利用には、関税額や消費税額に相当する担保の提供が必須(=必要担保)となっているので、決して税金を取り逸れることはないようにできています。
なお、上記のうち、「輸入の許可を与えることができない場合」とは、麻薬や覚醒剤等の「輸入してはならない貨物」(⇒ 関税法第69条の11第1項各号)以外にも、他法令の許可・承認等を得られる見込みがたたないもの(⇒ 関税法第70条)や、原産地表示に問題があるもの(⇒ 関税法第71条)などが含まれます。
輸入許可前引取り制度については、次回のブログで、もう少し説明を続けたいと思います。
次回は、輸入許可前引取り制度で引き取られた場合に、いつまで納税が猶予されるのか、その貨物を輸出する場合は輸出申告が必要なのか、税関で許容する担保の種類、などについて説明する予定です。
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宜しければ、以下の当ブログも、ご参照ください。
2021.6.13 輸入してはならない貨物を知ろう
2021.6.29 偽札も偽カードも偽ブランドも、勿論、輸入してはならない
また、ご意見やご質問などがございましたら、当方の業務内容やプロフィールに一度目を通されて、どうぞ、電話やメールで、お気軽にお寄せください。(⇒ お問い合わせ)
また、特に、輸出入を業とする企業や製造業者の皆さんにあっては、納税前に貨物を引き取りたいケースも少なくないと思います。そうした場合の通関の方法等を含め、通関に関する社員教育は、特に重要だと思います。私はそうした内容の社内教育等も可能です。
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