新型コロナウイルス感染症による私たちの生活範囲の縮小が始まって、およそ1年半が過ぎました。
不要不急の外出自粛、在宅勤務が呼びかけられ、仕事も会議も飲み会もオンラインになって、普段の買い物も店が混んでない時間帯を選ぶようになりました。
何だか、身も心も、とても委縮してしまったことを実感します。
この窮屈な生活との比較はできませんが、関税法に規定する法定刑の最高は「10年以下の懲役」となっています。
10年とまでいかず、例え3日間でも、大部屋での犯罪者たちとの集団生活、起床から就寝まで指図される毎日、ずっと塀の中だけで暮らすのは大変なストレスだと推測します。
今回は、「輸出してはならない貨物」を輸出した時の罰則などのお話です。
「輸出してはならない貨物」を輸出すると
関税法第69条の2に、「輸出してならない貨物」として、
① 麻薬、向精神薬、大麻、けしがら、覚醒剤
② 児童ポルノ
③ 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、又は育成者権を侵害する物品
④ 不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号まで、第10号、第17号又は第18号に掲げる行為を組成する物品
の4つが、掲げられています。
そして、これらを不正輸出した場合の罰則が同法第108条の4に規定されていますが、その法定刑は、
(1)麻薬等の不正輸出であれば、10年以下の懲役若しくは3千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する
(2)児童ポルノ等の不正輸出の場合は、10年以下の懲役若しくは1千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する
と、定められています。
この10年以下の懲役は、他の刑法犯の量刑と比較すると、概ね、窃盗や詐欺、恐喝、盗品故買などと同程度です。
また、この「輸出してはならない貨物」を不正に輸出する罪は、未遂を処罰するほか、予備も(実行行為に着手していなくとも準備しただけで)処罰されると規定されています。
麻薬等の密輸出は、自用程度ならありうる
さて、まず、今の日本から麻薬や覚醒剤を不正輸出することは、自用(自分で使うために持つ)以外には、あまり考えられません。
外国向けの大量の麻薬(コカインなど)をコンテナの中に隠して、日本の港で積み替える場合や、誤って日本の港で陸揚げすることは考えられます。
そうしたケースについては、また、別の機会に考えてみたいと思います。
児童ポルノは「わいせつ物品」とは異なるもの
次に、児童ポルノです。この対象は、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(→ こちら)第2条に定義があります。
詳しくは、そちらを参照いただくとして、要するに「児童ポルノ」とは、写真や電磁的記録媒体等のモノであって、児童による性交又は性交類似行為はもとより、衣服を着けない児童の姿態であって人の性欲を興奮させ又は刺激する内容のものをいいます。
ちなみに、児童とは、「18歳未満の人」を指します。
児童ポルノは、単なる「わいせつ物品」とは異なります。
「わいせつ物品」は、刑法第175条やその判例によれば、性器や性交の場面がある図画や写真等で、芸術作品とは認め難いものですが、児童ポルノの方が、やや広い概念だと言えます。
また、「わいせつ物品」は、関税法第69条の11の「輸入してはならない貨物」の中に、児童ポルノとは別に、「公安又は風俗を害する物品」という形で掲げられていますが、こうしたことなどからも、児童ポルノの悪質性が際立っている感じがあります。
税関で摘発されるのは、書籍や写真、フィルム、DVD、USBメモリー、SDカード等の形になりますが、発見が難しいケースが多いと思います。
ただ、日本でも、児童ポルノの所持や提供、売買で摘発される事件報道が見られる一方で、インターネットを介して拡散されると(輸出としては摘発できない)、後で消すことさえできません。
児童虐待とともに深刻な問題で、更なる取締りの強化が望まれます。
育成者権以外の知的財産侵害物品の輸出は少ないが
次の特許権等を侵害する物品については、育成者権以外の権利について、そもそも、ニセモノの不正輸出というケースも考え難いものではあります。
育成者権は、種苗法(→ こちら)による品種登録によって生じる権利です。
例えば、日本の美味しいイチゴの品種が海外に不正に持ち出され、そこで栽培された果実が日本に逆輸入されたなどの実例があって、育成者権を侵害する物品の不正輸出を取り締まることは大変重要だと思います。
一方、特許権や実用新案権の対象となる技術が不正輸出されることは問題ですが、そのニセモノや、或いは偽ブランド品やコピー商品の輸出は殆どないと思われます。
これらは、「輸出してはならない貨物」が関税法に規定された当時(平成18年頃)、中国や韓国から不正輸入されるニセモノに困っていた我が国が、これらの国からの輸出を国際的に禁止する条約(協定)の締結を主導すべく、自ら範として、各知的財産関連の法律を改正して、各権利侵害品の輸出を禁止したことによるものです。
不正競争防止法の規制物品は分かりにくいけど重要
最後は、不正競争防止法に関連する物品です。関税法には、同法第2条の条文が6つ掲げられているだけですが、その条文の内容を、もう少し分かりやすく表せば、次の5種類の「不正行為を組成する物品」が対象となります。
- 周知表示混同惹起物品
- 著名表示冒用物品
- 形態模倣品
- 営業秘密侵害品
- 技術的制限手段無効化装置(アクセスコントロール回避装置など)
これらの態様の一つひとつをシンプルに説明するのは、私には難しいので、詳細は、経産省の説明資料(→ こちら)を見ていただきたいと思います。
犯則事件にならなくとも、輸出は勿論できない
「輸出してはならない貨物」のうち、児童ポルノに該当すると思われるものを税関職員が発見した場合は、関税法上の犯則にならない場合(行為者に犯則行為を行う意思がなかった等の場合)であっても、税関から輸出者にその旨の通知をすることとなっています。
勿論、その通知を受け取った場合は輸出が許可されませんが、輸出者は、その通知に不服があるときは、まず財務大臣に審査請求することができます。その後、その裁決にも不服がある場合に行政訴訟を起こすことができます。
特許権等の侵害品及び不正競争防止法上の組成品に該当すると思われる場合も、関税法違反事件として処分されないこととなっても、侵害品か否かの認定手続が執られることになっています。
要は、それぞれの権利者と輸出者との対決になる訳ですが、侵害品と認定された場合には、やはり輸出できないこととなります。
事業者が管理者責任を問われることもある
さて、最後に、両罰規定(関税法第117条)などについて触れておきます。
これは、例えば、法人(会社、社団、財団など)等の従業員や構成員が、その業務や財産において、本条の罪を犯した場合は、その法人等にも罰金刑を科す、というものです。
仮に、輸出業者の社員が業務で出張の折に、他社の営業秘密に関する情報を記録したメディアを持ち出そうとして税関に発見された場合は、その会社も、会社として処分される、ということです。
また、通関業者や保税事業者の経営者、役員等の場合は、例えプライベートであっても、例えば、児童ポルノに該当する内容のUSBメモリーやSDカードを税関に発見され、関税法違反として処分された場合は、通関業者や保税事業者の地位を失うことにつながります。言うまでもないことですが。
こうしたことの未然防止には、ひとえに、十分な社員教育が不可欠です。
「輸出又は輸入してはならい貨物」に関する教育実績がない、或いは十分でないと判断されることは、それ自体、法人活動としての大きなリスクになります。
私も、そうした教育については、ご相談に応じています。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net )
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