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貿易実務

過少申告加算税の税率は5%か、10%か、15%か

加算税というのは、「正しく納税申告しなかった」場合とか、そもそも「納税申告すべきなのにしなかった」場合に、その納税義務者にペナルティとして課される税金です。

関税法には、過少申告加算税と無申告加算税が制度として規定されています。(⇒ 関税法第12条の2、第12条の3

また、その状況が、隠ぺいや仮装を伴う悪質な場合だと、これらの加算税に代わって、重加算税が課されます。(⇒ 関税法第12条の4

今回は、この過少申告加算税の「税率」の解説を試みたいと思います。

過少申告加算税はどういう場合に課されるか。

過少申告加算税は、例えば、次のような場合に、税関から納付を求められます。

  • 税関への納税申告が低価であって、税関職員にその指摘をされて税額を訂正した
  • 輸入申告の際の品目分類を間違えて、税率が低い品目で申告したため、税率の高い品目への訂正を求められた
  • EPA税率を適用して申告したが、原産地基準を満たさないことが判明し、税率の修正を求められた
  • 再輸入免税の適用ができると見込んで申告したが、条件を満たさないから適用できないと言われた
  • 過去3年間の輸入実績について、税関の事後調査の結果、一部の納税額が過少と指摘された

などなど。

いずれの場合も、税関の指摘を受けて修正申告した場合、或いは、税関が更正処分を行った場合に、その増加した関税の額に一定率を掛けた額の加算税を課されることになります。

勿論、関税が無税で、消費税しかかからない場合も、国税通則法(⇒ 第65条)と「輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(輸徴法)」(⇒ 第19条)の規定に基づき、本来納付すべき消費税等が少なすぎた場合などに、修正申告等をして増加した消費税等の額に応じて加算税が課されることとなります。

過少申告加算税の税率は10%が基本

さて、関税及び消費税に係る過少申告加算税の税率は、先ほどの関税法第12条の2等の規定に基づき、基本は10%と決まっています。

しかし、この税率については、場合によって、5%であったり、15%であったりします。様々なケースで、税率が変わってくるので、戸惑うことがあると思います。

なので、以下、できるだけ平易な説明を試みたいと思います。

なお、消費税の加算税の率について、関税の加算税と並行して説明すると、ちょっと複雑になるので、今回は関税の加算税のみについて考察します。ご了承ください。

例を示して説明します。

2024年4月1日に輸入申告して、その際の納付申告税額が60万円であったとします。

当初申告の納付申告税額:A=60万円

しかし、その審査を担当した税関職員によって、価格の計算に誤りが発見され、税関から30万円(増額)の修正申告を求められました。

1回目の修正申告の増差税額:B=30万円

この場合、税関職員の指摘による修正申告で、自主的な修正申告ではないので、Bには、10%の過少申告加算税がかかります。

1回目過少申告加算税の税額:b=3万円(30万円×10%)

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5%加重される(15%になる)場合がある

ちなみに、過少申告加算税の税率は、その増差税額が、当初申告の納税額(この場合は、A=60万円)又は50万円を超える場合は、その超える部分について、5%の加重がなされる決まりです。(⇒ 関税法第12条の2第2項

つまり、この「超える部分」の過少申告加算税の税率は、15%になります。(=「5%加重の原則」

しかし、1回目の修正申告の増差税額(B)は、30万円ですので、この基準に満たないことから、この「5%加重の原則」の適用はなく、結果として、Bの全体の加算税の税率は10%となり、3万円の加算税が課されることになったものです。

よって、今回の輸入申告については、申告書を修正して、関税90万円(A+B)と過少申告加算税3万円(b)を納めて、輸入許可になりました。

4/1の納付税額の合計=A+B+b=93万円

5%の加重は、累積増差税額を含めて判断する

次に、この4月1日に許可になった申告について、4月15日になって、税関から、今回の輸入(納税)申告書の見直しを行った結果、当初申告の品目分類(HS番号)が間違っていたと、指摘されました。

このため、関税率が高い品目へ、2回目の修正申告をすることになり、その増差税額は、40万円(C)だった、とします。

2回目の修正申告の増差税額:C=40万円

このときも、Cには、過少申告加算税がかかります。

一方、この増差税額は、Bの30万円(累積増差税額)と、今回(C)の40万円を足して、70万円になるので、先ほどの「5%加重の原則」によれば、A(60万円)を超える10万円が加重の対象となります。

1回目と2回目の修正申告の増差税額:B+C=70万円

よって、今回の修正申告により、加算税の税率は、60万円まで10%、10万円は15%だと考えることができます。

B+C(70万円)- A(60万円)=10万円⇒過少申告加算税の税率:15%

つまり、2回目の修正申告をした時点で、過少申告加算税の合計額は、増差税額のうち、60万円分については6万円、10万円分については1万5千円となります。

合計で、6万円+1万5千円=7万5千円ですね。

(60万円×10%=6万円)+(10万円×15%=1万5千円)=7万5千円:c

しかし、既にBの時に3万円(b)を納税しているので、この分を差し引いて、追加の加算税は、4万5千円となります。

2回目過少申告加算税の納付額:(c)7万5千円 – (b) 3万円)=4万5千円

この2回目の修正申告の際には、不足税額40万円と加算税4万5千円を納付することとなりました。

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順次、累積増差税額を累計して過少申告加算税率を判断する

次に、この4月1日に許可になった輸入申告について、8月1日に、税関の事後調査を受けて、別払い(評価加算もれ)があったことを指摘され、3回目の修正申告(増差税額20万円:D)を行ったとします。

やはり、Dには、過少申告加算税がかかります。

この時の増差税額は、Bの30万円(累積増差税額)、Cの40万円(累積増差税額)と、今回の20万円を足して、90万円になります。

1回目と2回目と3回目の修正申告の増差税額:B+C+D=90万円

「5%加重の原則」によれば、A(60万円)を超える30万円が加重の対象となります。

よって、今回の修正申告により、加算税の税率は、60万円まで10%、30万円は15%となることが分かります。

B+C+D(90万円)- A(60万円)=30万円⇒過少申告加算税の税率:15%

つまり、この3回目の修正申告により、過少申告加算税の額は、60万円×10%=6万円に、30万円×15%=4万5千円を足した、10万5千円になります。

(60万円×10%=6万円)+(30万円×15%=4万5千円)=10万5千円:d

しかし、既にBの時に3万円、Cの時に4万5千円を納税しているので、この分を差し引いて、追加の加算税は3万円となります。

3回目過少申告加算税の納付額:(d)10万5千円 – (c) 7万5千円)=3万円

よって、この事後調査による3回目の修正申告の際には、不足税額20万円と加算税3万円を納付することとなりました。

修正申告後の納税額は、このように徐々に増えています。

でも、過小申告加算税の計算をするときは、その都度の増差税額ではなく、増差税額の累計額でみるので、誤解が生じやすいのかもしれません。

事後調査の通知の前に自主修正すれば、5%で済む

一方、過少申告加算税の税率は、5%に軽減される場合があります。

また、修正申告に係る過少申告加算税の税率が0%、つまり「課税されない」場合もあります。

その辺りのことを、以下に説明します。

まず、関税法第12条の2第1項(⇒ 関税法第12条の2)には、過少申告加算税の税率については、次のように規定されています。

・・・100分の10の割合(修正申告が、その申告に係る関税についての調査があつたことにより当該関税について、更正があるべきことを予知してされたものでないときは、100分の5の割合)を乗じて計算した・・・

これを言い換えれば、過少申告加算税の税率は、基本的に10%であるけれども、「更正があるべきことを予知してされたものでないときは5%」とする、ということですね。

この「更正があるべきことを予知して・・・」という文言が分かり難いのですが、この点について、関税法基本通達12の2-18(⇒関税法基本通達第2章第3節)に、次のように記載されています。

・・・その輸入者に対する実地調査、・・・又はその輸入者の輸入(納税)申告書・・・の内容を検討し、若しくはその輸入者に対する原産品であることの確認のための資料の提供を求めた上での非違事項の指摘等により、当該輸入者が具体的な調査があったことを了知した後に修正申告書が提出されたと認められる場合、当該修正申告書の提出は、原則として、「更正があるべきことを予知してされたもの」に該当する。

つまり、ここに例示として記載されているような状況で修正申告した場合は、過少申告加算税の割合は基本の10%、ということです。

先ほどの法第12条の2第1項と併せて読むと、「ここに記載されているような状況でない」場合は、あえて言えば、税関の指摘がある前の修正申告等であれば、過少申告加算税の割合は5%になる可能性がある、ということです。

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修正申告して、過少申告加算税が課されない場合もある

最後に、過少申告加算税が課されない場合について説明します。

もう一度、関税法第12条の2第5項(⇒ 関税法第12条の2)をご覧ください。

ここに、次のとおり規定されています。

第1項の規定は、修正申告が、・・・更正があるべきことを予知してされたものでない場合において、その申告に係る関税についての調査に係る第105条の2・・・の通知(調査を実施する旨の通知)がある前に行われたものであるときは、適用しない

つまり、過少申告加算税の税率は、その修正申告が、税関による指摘を受ける前に(輸入者が自主的に)行う場合であって、かつ、事後調査を行う旨の通知がある前である場合は課さない(0%)という規定です。

過少申告加算税の税率は、5%、10%、15%と、3種類ありますが、大切なことは、税関の指摘を受ける前であって、かつ、事後調査を行う旨の通知(電話連絡など)を受ける前に、自主的に修正申告すれば、過少申告加算税はかからない、ということですね。

以上、過少申告加算税の税率についてご説明してきました。

ちなみに、平成28年度の関税法改正までは、この関税法第12条の2の条文は、「更正があるべきことを予知してされたものでないときは過少申告加算税を課さない。」となっていたのですが、所得税等の国税の制度が「誤った申告」に対して厳しくなったのを背景に、関税も厳しい考え方に傾いて、「5%への軽減」に改正されたものです。

今もそういう傾向にあるようで、その理由は分かるとしても、法律が何度も改正されていて、制度がちょっと複雑になりすぎているようにも思えますね。

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