前回の投稿で、財務省・税関では保税制度の在り方について検討されているとお話ししました。
また、その制度の見直しの方向として、国民の多様なニーズに対応し、貿易円滑化を図るための保税制度の在り方について、①利用者の視点から見た煩雑な手続の解消、②効果的な検査・取締りの実施、③保税制度の潜在的なニーズの発掘の3つの柱に基づくものであると財務省の意図をご紹介しました。
比較的簡単な見直し策として、同一港内での保税運送手続きをふようにできるのではないか、というお話もしました。(⇒ 「同一開港に接続する陸地での保税運送承認を不要にできないか」)
前回の投稿から日が経ってしまいましたが、本稿では、やはり私見に基づいて、保税制度に係る「煩雑な手続」を改善する方策を、もう一つ述べてみたいと思います。
保税地域から外国貨物を持ち出すときは許可(承認)を受ける。
保税蔵置場などの保税地域は、外国貨物を置ける特別な地域です。
言い換えれば、外国貨物は、原則として、保税地域以外の場所に置くことはできません。
ここで言う「外国貨物」とは、関税法の規定によって、外国から日本に到着して輸入の許可を受ける前の貨物と、外国に向けて輸出される貨物で税関の輸出の許可を受けた貨物とされています。(⇒ 関税法第2条第1項第3号)
一方、この外国貨物は、税関の輸入の許可を受ける前であっても、輸出の許可を受けた後であっても、何かの事情で保税地域から搬出しなければならない場合があります。
前回、少し説明した「保税運送」もその一つです。
例えば、港のコンテナヤードから外国貨物が入ったコンテナをデバン(コンテナの中身を出す行為)するために他の保税蔵置場に移動させる場合などが該当します。
この場合は、原則として、運送を開始する前に税関長の運送の承認を受ける必要があります。
また、指定された期間内にその運送を行って、貨物が運送先に到着した後も、承認した税関に貨物がきちんと(期限内に、かつ、過不足等なく)到着した旨を報告することが求められています。
他にも、外国貨物を外国貨物のまま保税蔵置場の外に持ち出す機会がありますが、その一つとして、「見本」の一時持出し等の制度があります。
外国貨物は「見本」として持ち出すことができる。
ここで言う「見本」とは、一般的な解釈と同じで、商品などの全体の中の一部の品物で、その全体の内容等を把握できる(代表する)ものと言えると思います。
外国貨物のまま保税地域から持ち出す「見本」は、ほぼ次の三つの場合に区分できます。
一つは、税関が輸入申告や輸出申告された貨物の検査を行う際に、貨物の全部ではなく、その代表的な品物を「見本」として検査する「見本検査」の対象となったものです。
例えば、衣類など、その性状によって品目分類番号や関税率が異なる品物の場合は、一着あればその確認はできます。
つまり、輸入申告貨物の中からアイテムごとに1着(箱、個、本、足など)を選定し、保管している保税地域から税関検査場や税関の事務所に運んでもらい、税関職員が検査(確認)するときの「見本」です。
二つ目は、港の検疫所などが食品や食器等の成分や含有物の分析等を行うために、職権で採取する「見本」です。
こうした場合、その外国貨物を保管している保税蔵置場等では、税関の確認印がある「見本採取票」を確認して、採取の作業に対応します。
検疫所等の職員の採取が終わったら、当該保税蔵置場等は、その「見本採取票」の写しを保管しておくこととされています。
なお、これら二つの場合は、その貨物全体の輸入申告の際に、見本の採取後の数量により申告しても良いとされていますが、その見本が少量、かつ、低価値である等により、輸入申告者が数量(価格)の修正等を望まないときは、元の数量のままで申告し、許可を受けても問題ない、とされています。
「見本の一時持出し」は税関の許可を受ける。
最後は、今回のテーマに関連しますが、いわゆる「見本の一時持出し」と言われるものです。
輸入契約等の内容によっては、外国から到着した品物(例えば、食品、化学品、油類など)について、税関への申告の前に、その成分の分析等をするために、保税蔵置場等から、その一部を試験機関等へ一時的に持ち出す必要があります。
この場合、事前に税関に「見本の一時持出し」を申請して、許可を受けます(⇒関税法第32条)。
この申請は別に難しい基準がある訳ではなく、通達(⇒関税法基本通達32-1(見本の一時持出しの許可基準及び申請手続))によれば、課税上問題がなく、かつ、少量のものに限られるもの、という限定がされている程度です。
実際には、運用として、税関による外国貨物の取締り上支障がないものであれば、指定する期間内に元の保税地域に戻し入れることを原則としつつ、比較的容易に見本持出しの許可はされていると思います。
また、その「戻入れ」については、見本として持ち出した外国貨物が、その期間内に残余の貨物と一括して輸入許可を受けた場合は、戻し入れる必要はない、とされています。
運用としては、「一時持出し」の許可の対象となった「見本」については、貨物全体はいずれ輸入されることが見込まれることなどから、あえて保税地域への再搬入を厳しく求められることはないように思います。
これは、その「見本」として搬出されるものが、輸入者の便宜のため(例えば、注文を取るために必要とか)であれば、見本持出しの許可ではなく、その分だけ仕分けして輸入許可を得るよう、税関から求められるからだと思います。
つまり、一時持出しとはいうものの、この場合の「見本」は、持ち出したままでも、或いは、成分分析などで費消してしまう部分も含め、取締上の支障がなく、課税上の問題もないものを前提として、柔軟な運用が図られているように思いますし、私はそれで問題ないと考えます。
「見本の一時持出し」をしたら搬出の記帳をする。
一方、本ブログの読者は既にご承知かもしれませんが、保税蔵置場等の被許可者は、外国貨物を搬出した場合、関税法の規定(⇒関税法第34条の2)により、定められた事項を保税台帳に記帳しなければなりません。
見本持出しの場合も、政令(⇒関税法施行令第29条の2第1項第6号)の規定により、記号、番号、品名、数量、指定する期間、持出し先、持ち出した日付を記帳しておくことが定められています。
随分、細かく決められている印象ですが、少量であっても、外国貨物を輸入の許可前に持ち出すので、関税等の納税を担保し、麻薬等の密輸を防止する意味では、「そうあるべき」なのでしょう。
しかし、この記帳義務が、保税蔵置場の意外な重荷となっているのです。
搬出記帳は、海上で7日、航空で2日の猶予しかない。
この記帳手続は、マニュアル保税台帳であれば、そのまま、記帳事項を記載しておけばよい訳ですが、NACCS(輸出入通関等を行うシステム)で管理されている保税蔵置場では、原則として、NACCS処理をしなければなりません。
海上NACCSでは「MHO(見本持出確認登録)」業務を行います。業務としては何ら難しいことはなく、必要な情報を呼び出して、申請番号と持ち出した日時を入力して送信すれば終わりです。
ちなみに、税関の見本検査と、権限のある政府機関の見本採取の場合は、搬出確認登録の処理はありません。
問題は、この処理を、海上システムの場合は指定期間の最終日から7日以内に行わないといけないことになっていることです。この期限を過ぎるとシステムから見本持出情報が削除されてしまうので、登録したくてもできないのです。
航空NACCSの場合は、「MMO(見本持出確認登録)」業務ですが、更に猶予がなく、指定期間終了日から2日以内に行う必要があります。
こうした極めて厳しい処理期限が設けられている理由を、私なりに考えてみましたが、一つは、NACCS内の貨物情報は常に最新であるべきだから、かもしれません。税関はこれを前提に、システムを利用して外国貨物等の取締りを行っているので、見本持出しに限らず、NACCSにきちんと貨物の状況が反映されている必要があります。
でも、それはそれで、他のシステム業務と比較して、この「見本の一時持出し」に係る搬出登録業務に期間制限を設ける必要はないように思います。
また、登録期限を過ぎてしまうと登録ができないというシステム上の制約は、NACCSシステムを更新して、期間制限を無くすか、もっと長い期間に修正すれば済むこと、ではあります。
記帳処理(台帳記入)を不要にできないか。
でも、見本持出しの際の搬出登録(台帳記帳)は本当に必要でしょうか。
いっそ、MHO業務やMMO業務を無くすことはできないでしょうか。
その理由の一つは、保税地域からの持出しは、税関の審査を経て、許可を得ているということです。
輸入の許可と見本持出しの許可は別物だということは勿論理解しています。でも、課税上問題がなく、取締り上支障のないものであるなら、保税地域からの引取りとしては同じ様に考えても良さそうに思います。
一般に、輸入の許可を得た貨物については、その時点で内国貨物になるので、搬出の登録は不要です。
見本持出しされた貨物についても、内国貨物と同様に考えることはできるように思います。
また、その持出し期間中に許可されれば再搬入の必要もなく、運用上とは言え、実質的に再搬入を求めることが少ないということも理由の一つです。
「見本の一時持出し」が認められた貨物は、搬出登録は必要ですが、再搬入の登録は不要とされています。
勿論、だから、再搬入そのものが不要と言うものではありませんが、実質的に、再搬入を求めないケースが殆どであるなら、「再搬入しなくて良いもの」に限定して「搬出登録は不要」としても良いでしょう。
先にお話ししたように見本持出しされた貨物は、保税取締り上支障がなく、課税上も問題なく、ごく少量のものです。輸出入してはならないものや他法令上問題がありそうなものは「見本持出し」そのものが許可されないケースが多いのではないでしょうか。
また、関税、消費税等の観点では、殆ど意味のない範囲のものなので、持出し行為の記帳をする必要は乏しいと思います。
MHO業務をシステム制限の期間中にしなかったときは、関税法の記帳義務違反として、保税上の非違になり、税関長の処分の点数が加算されます。
非違に係る点数が一定の点数に達すれば、搬入停止等の処分がなされます。
夏の暑い日も、冬の寒い日も保税の現場で毎日一所懸命作業している皆さんの、そうした恐怖を少しでも除いていくことも、保税制度の使いやすさにつながるということを、税関当局に認識していただければと思います。
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