税関長の「処分」というと、保税蔵置場への搬入停止の「処分」とか、輸入者への税金の「追加徴収」などを思い浮かべるかもしれません。
でも、本来は、税関長による行政行為のうち、例えば、輸出入を許可するという通知や、輸入しようとする貨物が商標権等の侵害品に当たるとの通知も、処分と言えます。
また、そうした処分を行うときは、税関長(一般的には、担当の税関職員)から、窓口での手渡しとか、システム上の通知、或いは郵送などの方法で書面が送達されることとなります。
今回は、その「送達」について少し考えてみます。
更正処分なら、更正通知書等の送達を受ける。
例えば、税関の事後調査を受けたとして、その結果、過去の輸入申告が間違っていた場合に、不足する関税や消費税について、修正申告(=関税法第7条の14)して、追加の納税をするよう求められると思います。
ちなみに、修正申告とは、輸入者が自ら納税申告のやり直しをするものです。
なので、このとき、税関の指摘や説明に納得できないとか、今はそんなお金の余裕はないとか、とにかく納税したくないとすると、修正申告を先延ばしする人がいるかもしれません。
法的には、そうした事態の次の段階としては、税関長から、更正や決定の処分(=関税法第7条の16)を受けることとなります。
事後調査の場合なら、税関職員が輸入申告内容を精査した結果、あなたの納税申告は間違っていて、正しい税額は○○円なので、不足分の△△円を、◇月◆日までに納付しなさい、という通知です。
一般的には「更正通知書」(「関税更正・決定・賦課決定通知書」=税関様式C-1040)と「納付書」(=税関様式C-1010)を、郵便などの方法で受け取ることになります。
送達は、郵送によるか、交付によるのが一般的。
この様に、関税法等の規定に基づいて、何等かの処分等に関する書類を、定められた方法で納税義務者等に知らせることを、法的には「送達」と言います。
関税法では、第1章(総則)、第3節(送達)、第2条の4(送達)に、大要、
・ 国税通則法第12条(書類の送達)及び第14条(公示送達)の規定は、関税法等の規定に基づいて税関長又は税関職員が発する書類の送達について準用する。
・ この場合、国税通則法の「納税管理人」とあるのは、関税法第95条に規定する「税関事務管理人」と読み替える。
と規定されています。
〔よって、ここから先は、国税通則法(⇒第12条と第14条)の解説にもなる訳ですが、関税法には、こうした準用規定がそこそこ多くあります。〕
まず、書類の送達は、原則として、郵便若しくは信書便による送達又は「交付送達」によるとされています。
このうち、郵便は、原則として、普通郵便で構わないとされています。ちょっと意外ですよね。
送達すべき書類が、例えば、差し押さえ関係の書類とか、特に重要と認められる場合は、書留とか配達証明により送達するとされています。(=関税法基本通達2の4-3(3))
また、この書留郵便等以外の郵送又は信書便による送達の効果は、法律上は、当該書類を発送した事実がある限り、通常到達すべきであった時に送達があったものと推定する(される)としています。(=国税通則法第12条第2項)。
交付送達は、どこかで誰かに税関職員が手渡すもの。
「交付送達」とは、一般的には、税関職員が、「送達すべき場所」において、その送達を受けるべき者に書類を直接交付して行うものです。これを、「手渡送達」とも言います。
例えば、郵便で送達したが、「受取拒絶」で郵便物の受領を拒否したような場合に、税関職員が、相手方に直接出向いて、面前で書類を渡す、というやり方です。(⇒国税通則法第12条第4項)
また、本来、書類を送達すべき場所は、送達を受けるべき者の住所又は居所であり、その者が法人等であれば事務所や事業所ですが、送達を受ける人に異議がないときとか、自宅で受け取りたくないなどの場合は、別の場所において受け取ることもできます。これを「出会送達」と言います。(前同)
本人が不在の時は、同居の者に渡しても良い。
では、交付送達しようとして、送達すべき場所において書類の送達を受けるべき者がいなかったとか、何かの理由で本人に会うことができなかった場合は、どうなるでしょうか。
その場合は、送達を受けるべき者の「使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当のわきまえのあるもの」に書類を交付することができるとされています。これを「補充送達」と言います。(⇒国税通則法第12条第5項第1号)
この場合の「同居の者」は、必ずしも生計を一にする者である必要はなく、送達を受けるべき者と同一の建物に居住している者であればいいとされています。
また、「相当のわきまえのあるもの(者)」とは、書類の送達の趣旨を理解し、受領した書類を本来の送達を受けるべき者に手渡すことが期待できる者であって、未成年者でも構わない、とされています。
本人が受取りを拒んだら置いて来る。
さらに、そうした使用人や従業者や同居人がいない場合とか、税関の書類を「どうしても受け取りたくない」と、理由なく拒んだ場合はどうなるでしょうか。
こうした場合は、送達すべき場所に書類を差し置くことができるとされています。つまり、玄関先に置いて来るとか、郵便受けに入れて来るなどの方法でよいとされているのです。これを「差置送達」と言います。(⇒国税通則法第12条第5項第1号)
以上において、そもそも、この「送達を受けるべき者」は、勿論、その書類の名宛人を指しますが、実務上は、通関業者が業務を行っている場合は、その通関業者に送達しても差し支えない、とされています。
ただし、「関税の加算税賦課決定通知書」(C―1045)の送達については輸入者宛に送達すべきものとし、通関業者がその写しの交付を希望する場合には、輸入者の同意を必要とする、とされているので注意が必要です。(=関税法基本通達2の4-3(1))
郵便等による送達又は交付送達の効力は、送達を受ける者がそのことを知り得る状態におかれた時、つまり、送達を受ける者若しくはその使用人等に交付した時又は送達すべき場所に差し置いた時(郵便受箱に投入された時等)に生じるとされ、一旦送達された書類が返還されても、その送達の効力に影響はありません。
受取人不明で戻ってきたらどうするか。
では、その「送達を受けるべき者」に郵送しても受取人不明で戻ってくる(住所及び居所がともに不明)とか、税関職員が出向いて交付送達しようとしてもできない場合だったら、どうなるでしょうか。その場合は、「公示送達」によることとなります。
公示送達は、書類の名称、送達を受けるべき者の氏名と共に、「その書類をいつでも交付する」旨を税関の掲示場に掲示する方法です。(=同条第2項)。
公示送達は、住所等が不明の場合の他、外国における送達について困難な事情があると認められる場合に限り、これによるとされています(=国税通則法第14条第1項)。
この場合の「外国における送達について困難な事情があると認められる場合」とは、単に外国に居住しているから日本の郵便路線で送達するのは困難、という場合は該当しません。
当該国と日本が国交を断絶しているとか、国交が開かれていないとか、国際郵便条約がないとか、戦乱などの非常事態の生じた地域で送達に重大な支障があること等の事情があって、送達が困難であると認められる場合をいいます。
この公示送達の効力は、送達書類の掲示を始めた日から7日を経過した日に生じます。
また、その末日が休日等に該当しても延期されません(=国税通則法第14条第3項)。
さらに、例えば、督促状の場合は掲示を始めた日が督促状を発した日となり、公示送達のための掲示書が送達の効力の発生前に破れ、又は剥がれても、その公示送達の効力に影響はないとされています。(=関税法基本通達2の4-2(3))
税関事務管理人や特定税関事務管理人がいれば、その者に送達する。
さて、最初に関税法第2条の4の条文(要約)でご紹介したように、その送達を受けるべき者に「税関事務管理人」があるときは、税関事務管理人の住所又は居所に送達することとなっていましたね。
公示送達をする場合の条件である「住所等が不明」とか、「外国における送達について困難な事情がある」に該当するかどうかの判定に当たっては、法第95条第5項の規定による「特定税関事務管理人」となり得る者があるかどうかについては考慮する必要はないとされています。
ただ、その送達を行う段において、現に特定税関事務管理人がある場合は、送達すべき書類の受領が当該特定税関事務管理人に処理させる同条第3項の特定事項に含まれているときは、公示送達ではなく、当該特定税関事務管理人に送達することになるのは言うまでもありません。
本来、税関事務管理人制度は、本邦に住所や居所、事業所等を有しない輸入者等が、税関事務を行うために、本邦に住所等を有する者を税関事務管理人として定めて、税関長に届け出て、税関からの通知や税関に提出する文書の受渡し、事後調査のための保管書類の提示等の義務に応えるための制度です。
また、特定税関事務管理人の制度は、この関税法第95条の一部が、昨年(令和5年)の関税改正において改正され、同年10月1日から実施された制度で、税関事務管理人を定めるべき申告者等がこれを定めないときに、税関長が、特定事項を処理させるために指定する税関事務管理人をいいます。
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