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貿易実務

申告価格を誤る理由を考える

日本の税関は、毎年、結構な額の関税や消費税の追徴(追加徴収)を行っています。

その実態は、税関ホームページでも公開されていて、最新の調査結果(→ 令和元事務年度の関税等の申告に係る輸入事後調査の結果)によれば、2019年7月~2020年6月の間に、合計2,700者余の輸入者から約117億円を追徴しています。この額には、加算税約5億円が含まれます。

関税や消費税の追徴の原因は何か。

では、その追徴の原因は何でしょうか。

この令和元事務年度の調査結果に添付の「トピックス」によれば、

  • インボイスは正しいが、申告に誤りがあるもの:約77.7%
  • インボイスに誤りがあるもの:約21.9%
  • その他:0.4%

となっています。

そもそも、この「インボイスは正しいが、申告に誤りがあるもの」や、「インボイスに誤りがあるもの」とは、どういうことでしょうか。

grief- S.Hermann & F.Richter, Pixabay
grief SHermann FRichter Pixabay

申告を「誤った」要因は何だったのか。

いろいろ考えられます。例えば、

  • インボイス価格以外に代金の支払いや負債の弁済などがあった
  • 原材料、資材、金型などを輸出者に無償提供した
  • 以前の輸入貨物が不良品だったので、その損害額を今回の決済で値引きした
  • 品目分類を間違えてしまい、結果、関税率を誤った
  • 原産地証明書に齟齬があってEPA税率や特恵関税率の適用が後で否認された

などです。

ただし、事後調査事績の中で、分類誤りと原産地の否認は多くないと思います。

一方、例えば、インボイスを不正に作成するなど悪質な事例については、重加算税(過少申告の場合は、不足税額の35%)が課されますが、この期間の重加算税の課税額は、(わずか)6千万円でした。

そうすると、この2,700者に対する追徴の、殆どのケースは、輸入申告すべき価格に関して、何かを誤った、或いは知識不足だった、と言えるでしょう。

では、その「誤った」要因は何でしょうか。

それは、単に「関税評価」に関する理解が不足していたのだと思います。

「関税評価」に係る知識不足が、関税の追徴や加算税の賦課につながっていると言っていいでしょう。

では、「関税評価」とは、いったい何でしょうか。

to-learn- Gerd Altmann, Pixabay
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「関税評価」とは何なのだろうか。

税関では、「関税評価」をして、「課税価格を法律の規定に従って決定すること」だと定義しています。(→ 関税評価の概要(カスタムスアンサー))

これも分かりにくい表現だろうと思います。

私なりに定義すれば、「関税評価」とは「税関への申告価格(Customs Value)を算出するルール」(Customs Valuation)です。

言い換えれば、「関税の課税価格(= Custom Value)」を決定することがCustoms Valuationであり、Customs Valuationを訳して「関税評価」又は、単に「評価」と言っているのだと思います。

普通、税関への輸入申告の際に、同時に「納税申告」をすることとなっています。だから、輸入申告価格は、納税のための、正しい「課税価格」(Customs Value)でなければなりません。

その価格が不当に低いと、「低価申告」(Undervalue)となって、結果、関税や消費税の納税不足になり、最終的に、関税等の追徴と延滞税や加算税の課税を来たすことになる訳です。

この「関税評価」(Customs Valuation)の基本的なルールは、かなり細かく決められています。

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「関税評価」(Customs Valuation)のルールは多くの国で同じ

また、WTO以前から、1994年の「評価協定」の時から、国際的に統一された考え方であり、今も多くの国で統一されたルールとして制度化されています。(→ WTO Legal Texts)

問題は、「関税評価」(Valuation)について、日本では関税定率法に規定されていますが、これがまた、とても分かりづらいということです。

評価協定の規定(英文)を忠実になぞって規定化(日本文)したからかもしれませんが。

もう一つ、インボイス価格(Invoice Price)が、必ずしも課税価格(Customs Value)に相応しいとは限らないことも、事後調査で追徴を生む一因です。

インボイス価格(Invoice Price)以外に、関税の「課税価格に含まれるべき支払い等」があったとき、例えば、最初に事例としてあげた「別払い」や「相殺」、「無償供与」等があっても、インボイス価格に反映されていないことが多いということです。

さらに、我が国を含む多くの国では、この「課税価格」(Customs Value)は、法令で、インコタームス上のCIF価格と決められています。

インボイス価格(Invoice Price)や契約金額(Contract Amount, Contract Price)がCIF価格でない場合は、CIF価格になるように調整が必要です。

また、そもそも「評価」という日本語そのものが、「関税評価」の理解を妨げているのかもしれません。

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社内で「関税評価」の知識を広めるには。

「評価」という言葉は、人事評価や企業の評価、土地やモノの評価という場面で日常的に使われているので、「評価」という言葉を「課税価格」に結びつけるには、「関税評価」の知識が必要なのです。

ということは、生産部門や経理部門はもとより、契約や法規担当者でも、関税評価の知識がない者に、評価がどうのこうの、と言ってもピンとこないだろうということです。

いずれにしろ、輸入貨物の税額を決定するのは、税率と課税標準(申告価格など)ですから、どちらの理解も正確でなければ正しい納税申告ができず、輸入時の関税や消費税に過不足が生じます。

この過不足は、各社の経理上の不確定要素となり、さらに修正申告や更正請求といった余分な手続きをもたらします。

また、これが事後調査で指摘された場合は、過少申告加算税等の予期せぬ負担を増やすことになり、その商取引全体に影響が及ぶことになります。

ですから、海外から商品を輸入する商社等は勿論のこと、海外で製造した部品等を利用する立場のメーカーにあっても、少なくとも、その貿易担当者は、税関への申告価格を算出するルール、つまり「関税評価」の基礎は十分に理解しておく必要があります。

次回以降のブログで、「関税評価」のことを、少しずつ説明してみたいと思います。

また、関税評価に関する個別の問題や、基礎的な社内教育などについて、ご相談に応じています。(→ 貿易・通関・保税に絡む問題を解決したい GTConsultant.net

最初のご相談、ご質問(1時間程度)は無料です。

ご希望の方は、当方の業務内容やプロフィールに一度目を通されて、どうぞ、電話やメールで、お気軽にご照会ください。(→ お問い合わせ

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