偽ブランド品は侵害部分を切り取れば輸入できるか

保税蔵置場などで、輸入許可前(外国貨物)の状態でできる行為(これを、「取扱い」と言います。)のうち、「その他の手入れ」という行為については、
関税法第69条の11第1項第9号又は第9号の2に該当する物品について、商標を抹消するための行為を含む。
とされています。(⇒ 関税法基本通達40-1-(4)なお書き)

これを素直に解すると、輸入しようとした貨物が、例えば、商標権侵害品(いわゆる偽ブランド品)であった場合に、その侵害部分(商標)を切り取る行為ができる、ということで、では「切り取った後の貨物は通関できるのか」という発想もわきますね。

前回のブログ(⇒ 偽ブランド品等の認定はどの様に行うのか)では、自発的処理の「修正」としてふれましたが、今回は、この辺りのことを少し掘り下げてみようと思います。

3888952-bicycle-1872682. Pixabay

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結論を先に:「認定前」なら道があり、「認定後」は原則ない

偽のブランドロゴが付いたファスナーやボタンなど、商標権を侵害する「部品」だけを取り外してしまえば、残りの製品は輸入できるのではないか——現場でよく出る質問です。

答えは「タイミング次第」で大きく変わります。

結論から言うと、税関長が正式に「侵害物品に該当する」と認定した「後」では、侵害部分を切除しても通関は認められません。原則は、自分で滅却するか、税関による「没収・廃棄」です。

一方、まだ侵害品と認定される「前」の段階(認定手続開始通知を受け取ってから認定までの間)であれば、「修正」という形で侵害部分を除去し、非侵害品として輸入する道が、税関の実務上認められています。

認定手続の開始から税関が認定するまで、あまり時間がないと思いますので、この違いを事前に知っているかどうかで大きな違いがあるように思います。

大原則:TRIPS協定は「商標の単なる除去」による流通を認めない

例えば、WTOのTRIPS協定第46条は、不正商標商品(counterfeit trademark goods)について、「違法に付された商標の単なる除去により流通経路への商品の流入を認めることはできない」と定めています。(⇒ TRIPS協定第46条)

この協定第46条の、該当の文章中にある「例外的な場合を除き(other than in exceptional cases)という文言が何を意味するかにも留意する必要がありそうですが、いずれにしても、偽ブランドのロゴを剥がしただけで「もう侵害品ではない」として市場に出すことを許してしまえば、水際取締りの効果が減失してしまう、という考え方が背景にあるのかもしれません。

でも、私としては、この点、知的財産の権利者有利にやや傾き過ぎているようにも思えます。

輸入者だって、安く商品を仕入れる(安く国民に買ってもらう)ために、日々沢山の努力を重ねている訳で、「プロがニセモノだと気付かなかった」責任は問われるとしても、善意の(騙された)輸入者であったなら、何らかの救済措置があっても良いのではないかと思ったりします。

いずれにしても、知的財産侵害品として認定された後は、商標権侵害物品に限らず、関税法上「輸入してはならない貨物」として確定し、この段階で、例えば、輸入しようとしたバッグや靴などの「偽ファスナー」を切り取ったとしても、それは認定前の自発的処理の「侵害表示の除去」と実質的には同じですが、通関が認められるわけではありません。

また、認定後の貨物は、関税法上の「輸入してはならない貨物」として、税関の厳格な管理下にあると考えることが必要で、輸入者が任意に加工すること自体、簡単には行えないと思います。

現実的な選択肢は、自ら税関の承認を得て滅却するか、税関の没収・廃棄に応じるか、又は任意放棄に限られるのではないでしょうか。

arttower-wooden-kegs-52938_1280. Pixabay

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認定「前」の自発的処理:「修正」という選択肢はある

これに対して、認定手続の開始通知を受け取った段階(まだ税関長による最終判断が下る前)では、輸入者には次の5つの「自発的処理」の選択肢が用意されています。(⇒ 税関ホームページ、「認定手続開始通知書(輸入者用)を受け取った方へ 4.自発的処理について」)
①廃棄・滅却 通関業者等に依頼して、税関職員の立会いのもと、貨物を廃棄・滅却する。
②修正 侵害のおそれのある部分、または侵害する部分を切除するなどして修正する。
③積戻し 輸出貿易管理令による輸出承認が得られれば、これを取得のうえで、貨物を外国へ送り返す。
ただし、この場合、輸出の承認には、権利者の同意が要件となっています。(⇒ 関税法第69条の12第1項の認定手続が執られた貨物の輸出承認について(輸出注意事項15第16号))
(なお、商標権・著作権(及び著作隣接権)を侵害すると認定された貨物については、この輸出承認自体がなされません。)
④権利者からの許諾の取得 権利者の輸入同意書を得て、これを税関に提出し、正規に輸入する。
⑤任意放棄 貨物の所有権を放棄する。

このうち②の「修正」が、まさに「侵害部分を切り取る」という対応に当たります。

「修正」が認められるための条件

ただし、この「修正」には、次のような条件があります。

  • 恒久的な修正でなければならない―簡単に元に戻せるような修正(たとえば取り外し可能な形で取り付け直すなど)は認められません。後戻りできない形で、確実に侵害状態を解消する必要があります
  • 修正後の貨物が非侵害品と認められる―切除すればそれで終わりではなく、税関が改めて確認し、侵害に該当しないと判断されなければなりません
  • 切除した部分自体は輸入できない―勿論、取り外した偽ファスナーなど、侵害部分そのものは日本国内に持ち込めません。別途、滅却等の処理が必要です

これらを満たしたうえで、保税地域内での作業として適切な手続を踏めば、侵害部分を除いた本体(たとえば偽ファスナーを取り除いたバッグ)を輸入すること自体は、現在の税関実務上、可能とされています。

jessica45-lady-justice-2388500. Pixabay

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論点:ブランド権利者からの批判とTRIPSとの緊張関係

実はこの「認定前の修正による解決」という日本税関の運用は、かつて、ブランド権利者側から疑問視されている論点でもありました。

「知的財産推進計画2004」(2004年5月27日、知的財産戦略本部)では、「税関でのマーク切除を認める運用は、TRIPS協定第46条の趣旨を潜脱する脱法的な取扱いではないか」との指摘がなされています。(⇒ 2004.5.27知的財産推進計画2004(抜粋))

TRIPS協定が「単なる商標の除去による流通解放を認めない」としているのに対し、日本の税関実務が認定前の切除を広く許容していることには、国際的な整合性の観点から議論の余地がある、ということです。

ただ、私としては、先にも述べたように、この様な考え方は、やや権利者の主張に沿い過ぎている面もあるような気がしています。

税関の知的財産侵害品に係る認定手続が一種の「ジャッジ」であるならば、もう少し輸入取引の実態や商品の種類に応じたきめ細かな考え方があっても良いのではないかと思います。

まとめ:実務上のポイント

「侵害部分を切り取れば輸入できるか」という問いへの答えは、認定手続のどの段階にいるかで変わります。

認定前の自発的処理の段階であれば、恒久的な修正・非侵害品としての確認・切除部分を輸入しないという条件を満たすことで、輸入(通関)という解決策がありえます。

しかし、いったん侵害物品と認定された後は、この道は閉ざされ、自ら滅却するとか没収・廃棄に応じることが原則です。

輸入者としては、認定手続開始通知を受け取った時点で、早めに「修正」による対応が可能かどうかを検討することが、実務上のポイントになるでしょう。

suju-foto-pumpkin-10520325. Pixabay

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